3つめは、個と個の関係性に着目したもの。組織の能力は、必ずしも個の能力の総和にはならない。関係性によっては、総和を超えることも下回ることも普通に起こる。
皆さんの周囲でも珍しくないことだろう。個と個は相互依存関係の網で結ばれており、感情にも左右され機械と違って理屈どおりには動かない。感情は人それぞれ、合理的ルールが適用できないからこれは難しい。
しかし現在の経営にとって、3つめのアプローチの重要性が高まっている。どうすればいいのか? 本書ではルール(法則)として、進化心理学が適用される。
我々人間はホモ・サピエンスでもある。どれだけ知恵を付けたとしても、ホモ・サピエンスとしての生物学的な制約や特質を確実に保有している。それらを理解して、できるだけ逆らわず、またときに弊害を前もってコントロールすることで組織成果と個々の人間のウェルビーイングを高めようというのが、本書の主張である。
最も重要な制約は、個では外敵に対して圧倒的に弱いため、集団をつくらなければ身を守れないということだ。
脳はそれに適応するように、25万年かけて進化してきた。つまり脳は社会的関係を築くようにプログラムされているのだ(スマホを家に置いたまま外出してしまった時の不安感を思い出されよ)。本書の原題「The Social Brain」すなわち「社会脳」は、このことを意味する。
「1人あたりにかける時間」×「人数」
では、社会脳に基づくルールとは何か。社会的関係(≒仲間作り)に使える認知能力のキャパシティーは脳の大きさ(約1400cc)によって決まり、それが制約となる。
そしてキャパシティーを埋めるのは、「1人当たりにかける時間」×「人数」である。関係性の深さはそれにかける時間によりほぼ決まるので、深い関係性を結ぼうと思うとその人数は自ずと限られる。
1人当たりにかける時間とは、「社会的毛づくろい」に費やす時間を指す。サルは実際に仲間の毛づくろいをするが、ヒトはそうした身体接触がなくとも深い会話や食事をともにするなどして同様の活動をしている。
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