なぜ今、企業経営に「倫理」が求められるのか 「パーパス経営」の理想と現実をつなぐ判断軸

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普通の社会人であれば、善悪の判断がぶれることは、まずないだろう。しかし、厄介なのは「グレーゾーン」だ。何が正しいのかは、はっきりしない。

リスクとリターンは、コインの両面だ。リスクを避け続けていると、リターンはどんどん小さくなっていく。「不作為のリスク」と呼ばれるものだ。一方、顧客はもちろん、社会や将来世代のことを考えると、そのリスクをとるべきかどうかは、大変悩ましい。

経営の現場では、広い洞察と素早い決断が求められる。コンプライアンスだけが気になると、できるだけリスクを避けようとする。その結果、「不作為のリスク」をこうむる。それが、「失われた30年」といわれる平成の失敗の本質だ。オーバーコンプライアンスがはびこると、ますます負のスパイラルから抜け出せなくなる。

パーパスを実践するためには、1人1人が正しい倫理観を胸に、不確実な現実を切り開いていかなければならない。ただ、倫理はあまりに抽象的かつ多義的すぎる。そこで、優先順位が明確な判断軸が必要になる。それがプリンシプルである。

ジョンソン・エンド・ジョンソン「我が信条」

プリンシプルを基軸としたエシックス経営の先進事例を、見てみよう。

たとえば、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「我が信条(Our Credo)」は、よく知られている。そこには、会社の果たすべき4つの社会的責任が示されている。

① 患者、医師、看護師、そして母親、父親を含むすべての顧客、そしてビジネスパートナーに対する責任。
② 世界中の全社員に対する責任。同時に、公正性、道義性を重視する卓越したリーダーを育成する責任。
③ 地域社会、さらには全世界の共同社会に対する責任。
④ 株主に対する責任(イノベーションに果敢に投資し、新しい価値を生み続ける責任が含まれる)。

昨今、「マルチステークホルダー主義」として注目される企業倫理の本質を、80年前から掲げ続けているのだ。しかも、当時のジョンソン・ジュニア社長は、この信条を取締役会で初めて発表した際に、次のように断言したという。

「これに賛同できない人は他社で働いてくれて構わない」

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