なぜ今、企業経営に「倫理」が求められるのか 「パーパス経営」の理想と現実をつなぐ判断軸

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ただし、ここでも「エシックス」の本質を、正しく理解しておく必要がある。それは、「間違ったことをしない」という消極的な意味ではなく、「世の中にとって良いこと(ソーシャルグッド)」を積極的に行うという、より前向きな姿勢を意味する。言い換えれば、守りだけでなく、攻めの姿勢が求められるのである。

一方、その際に勢い余って、社会秩序を損なってしまうリスクもある。そのときに初めて、正しい「コンプライアンス意識」が本領を発揮する。アクセルとブレーキの両方を、社員1人1人が自らの中に内蔵していることこそが「自治(セルフガバナンス)」の本質であり、エシックス経営の一丁目一番地なのである。

したがってエシックス経営は、冒頭で述べたような不正・不祥事の撲滅という消極的な理由だけに求められるものではない。むしろ、ありたい未来に向けて、正しいリスクを積極的にとっていくときにこそ、本領を発揮する。

「額縁パーパス」に陥る理由

昨今、「パーパス経営」が世の中に広がり始めている。これは3年前に『パーパス経営』を上梓して火付け役の1人となった筆者としては、大変うれしい話だ。

しかし実態を見ると、素晴らしいパーパスを掲げているだけに終わってしまっているケースが少なくない。多くの場合、経営者も社員も、パーパスを日々実践するまでに自分ごと化できていない。そのような残念な光景を、筆者は「額縁パーパス」と揶揄している。

なぜ、このような結果に陥ってしまうのか? よく考えてみると、実はそこには大きな壁があることに気づかされる。

パーパスは、未来の「ありたい姿」である。いわば「きれいごと」だ。それ自体はとてもワクワクするものの、当然のことながら現実離れしている。一方、現実は制約だらけだ。経営者や社員は、きれいごとでは済まされない現実の前で、抜き差しならない決断を迫られる。

経営レベルでいえば、社会への貢献と自社の利益のどちらに重きを置くのか。今期の利益と将来の利益のどちらを優先するのか。限られた経営資源を、どこにどれだけ振り分けるのか――いずれも、「正しい答え」のない問いである。

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