「この部屋に引っ越してきたのは3年前。ある程度の広さがあって駐車場付き、ペット可で家賃6万円。かなり安いですよね。
引っ越した当初、ほかに選択肢がなかったんです。その頃付き合っていた彼女と別れて、猫を2匹抱えて追い出されたのに、手持ちの金がなくて。この部屋は予算と条件の兼ね合いで、とりあえず選んだ感じです」(三原さん 以下の発言すべて)
不安点は古い木造建築のため、構造上の脆弱さがあること。
「大工なので、躯体(くたい:建物の骨組み部分)の強度は気になりますね。特に昼間は猫たちを家に置いて仕事をしているので、自分がいないうちに災害にあったりしたらと思うと心配です。
それに木造で壁が薄いから、音が伝わりやすい。活発な猫たちが夜中に"運動会"をしてしまうこともあるので、近所迷惑にならないといいな、と。それで防音材とフローリングシートを敷くなど、賃貸でも問題ない範囲のDIYで気を遣っています」
そう言われれば、エアコンが稼働しているわりにはやけに暑い。真夏の西日が、外から伝わってきているのかもしれない。それも壁の薄さ故か。
「好きなことって、楽器の演奏や歌、ものづくり、猫と遊ぶこと、全部大きな音が出ることばかりなんですよ。だから常に音で近所に迷惑をかけないように気を遣います。それが窮屈ですね」
三原さんは困ったように笑って言った。
音大を卒業したが「大工」に方向転換
三原さんは洗足学園音楽大学で打楽器を専攻していた。しかし卒業後、飲食業勤務、舞台の大道具の製作業を経て大工として工務店を立ち上げたという、異色の経歴を持っている。
音楽の道を絶って、大工として独り立ちしようとするまでの転換点には、どんな出来事があったのだろうか?
「実は特にこれといった出来事は、ありません。僕は本来、自分勝手で流されやすいところがあって、わりとどうしようもない奴なんです。
音楽大学に行ったのも、浪人していた夏に乗っていたバイクの事故で、入院したことが原因。『これでは今年も受験勉強が間に合わないな』と思って、得意な音楽の道に絞って方向転換しました。
音楽がずっと好きでバンドを組んだりしていたので、とっさにその道を選んだわけです。それ以降の半年間は本気で音大対策をして、無事に合格しました」
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