これに加え、キャリア志向の強い女性は「男(夫)も女(自分)も男並みに」を求めてしまうところにジレンマがある、と私は分析しています。こういった女性を拙著『「育休世代」のジレンマ』では「マッチョ志向」と呼んでいますが、競争社会に対するコミットが強いゆえに、子育てのために多少仕事を犠牲にしてくれるような夫よりは、経済的な意味で「競争力のある」夫を選んでしまいます。
そうするとまず大抵、夫が自分以上に激務で時間的に協力を得づらい。そのうえ、結婚後、妻は男性優位社会においてよりポテンシャルのある夫を犠牲にしてまでして、自分だけがのし上がることを良しと思わないわけです。
結婚年齢にもよりますが、結婚時点でそこまで考えていないという面もあると思います。『「育休世代」のジレンマ』では就職活動(職場選び)においても、キャリア志向の女性が、将来のライフイベントのことを考えずに「福利厚生よりもやりがい」で仕事を選んでいく様子と、夫選びについても同様の無計画さがあることを書きました。
女性から「仕事を見越して家事育児をしてくれる夫を選ぶというのは、寿退社を目指して収入の高い男性を探すのと同じくらい打算的で嫌な女のイメージがある」という意見を聞いたことがあります。ここには一種の「女ぎらい(ミソジニ―)」を含んだマッチョ志向ゆえに、ライフイベントに対して戦略的になること自体への嫌悪感もあるのではないかと思います。
最近、特に海外ではFacebookのシェリル・サンドバーグさんほか、「夫選びが重要」とおっしゃる著名人の方も増えているように思います。ただ、こういう方々、そして私が知っている多くのケースで「私のキャリアは夫のサポートあってのもの」と言う女性は、かなりの確率で再婚だったりします。そもそも初婚で将来の育児分担とキャリアのバランス問題まで見越すのは極めて難しいのではないでしょうか。
女性が降りることが合理的になる職場の構造
かくして同類婚をしている場合、第1子出産時には夫婦で同じような職位、同じような収入を得ているケースが多いです。ところが出産後、良くも悪くも「母親に優しい」会社が日本で増える中では、多くの場合、夫の仕事を優先にした方が夫婦の選択として有利になってしまう構造があります。
出産した正社員女性が、育休から復帰して育児と仕事を両立しようとすることは、ある程度、当たり前に受け止められつつあると思います。一方、育休取得の前例が少なかったり、あくまでも「オプション」として見られたりする男性は、育休を取るにも定時で帰るのにも子供の発熱対応をするのにも、まだ風当たりが厳しい職場が多いと思います。
夫婦が仮に同じ会社で同じことをしても、男性が育児をするほうがよりネガティブに見られてしまう、しかもそれが一時的ではなく、長期にわたって影響を及ぼすと思えば男性は育児を担いにくくなります。
これに加え、夫婦間では育休や定時に帰ることによって妻の処遇が下がっていたりすると、もともと同等の稼ぎとポテンシャルがあると見えていた夫婦の「家庭内の合理的な選択」としても、稼ぎが少ない妻のほうが育児を多めに担ったほうがいいということになります。上方婚をしていれば、この夫婦間格差はますます拡大します。
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