熊本発、中国でぶっちぎりのラーメンチェーン
大ニュースになることもなく、もてはやされることもない。それでも熊本発のラーメン店は、中国全土に根を張ろうとしている。経営戦略を現地陣に委ねる発想が、期せずして世界展開への道を開こうとしている。
(週刊東洋経済2月2日号より)
中国を代表する金融街、上海・陸家嘴。国内外大手金融機関が数多く進出するこの界隈は、和洋中多彩なレストランが軒を連ねている。その中にあって、地元の若いホワイトカラーに圧倒的人気を誇るのが、日式、すなわち日本式ラーメンのチェーン店「味千拉麺」だ。昼どきには連日、若者の行列が延びる。
店内に足を踏み入れると、朗らかな「イラッシャイマセ」の声が掛かり、豚骨スープの香りが鼻腔を満たす。チェーンを展開するのは味千中国控股(アジセン・チャイナ・ホールディングス)。熊本に本社を置き、九州を中心に「味千拉麺」(国内108店)をチェーン展開する重光産業が出資する日中合弁企業だ。中国で今、最も話題の日系企業の一つといっても、過言ではない。
中国外食企業初の株式上場、地元幹部の「勘」を生かす
味千中国の店舗数は上海50店、深セン22店など沿海部を中心に現在212店。この1年、90店余りの高速出店で軽々と吉野家を抜き去った。営業利益率は約30%(2007年度中間期)と、日本本国の外食産業には類を見ない高収益体質だ。
「ラーメンという、日本で成長余地の乏しい分野で、中国市場を席巻している」。07年11月、米誌『ビジネスウィーク』の恒例「アジアの成長企業ランキング」で、トップ企業に選ばれたのが味千中国だった。
売上高の伸びや資本利益率などを基に、中国、台湾、インドの電子・産業機械関連メーカーが上位を占める中、外食産業からランクインしたのは味千中国だけ。実は中国の外食チェーンで、国内外で上場したのは味千中国が初めて。07年3月の香港上場では、有望銘柄として初日終値は公募価格を3割上回った。
一方、日本の重光産業自体は、店舗数はここ数年3~5%増止まり。2代目経営者の重光克昭社長は、「日本では個人経営のラーメン店がもてはやされ、チェーン店に大きなチャンスはない」と打ち明ける。
中国で個人消費は右肩上がりだが、日系企業の多くはこのうねりを完全にはとらえていないようだ。北京、上海に100店以上展開している吉野家が健闘しているくらいで、縮小・撤退組はもはや珍しくない。