熊本発、中国でぶっちぎりのラーメンチェーン

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 金額にすると、実は想像するよりずっと少ない。味千中国は味千ブランドの商標料や、独自調味料などの購入代金を日本側に支払っているが、この額は07年度で2億円。重光産業の年商の1割強だ。しかも中国側では調味料などの現地生産化を進めており、「味千中国の規模が順調に伸びても、こちら側の中国関連収益はせいぜい横ばい止まり」(重光社長)という。その一方で、重光産業が中国での商標権保持者であるため、味千中国に代わって偽物対策に費用を投じなければならない。
 
 というのも、人気急上昇の外食ブランドだけに、中国各地で味千の店名やキャラクターを模した現地飲食店が後を絶たないのだ。
 
 たとえば06年1月には、江蘇省無錫に「味仟」と称するラーメン店が出現。重光産業は商標の不当使用として地元店を提訴したが、勝訴した後に地元店から支払いを約束された賠償金はわずか6万元。弁護士費用8万元よりも少なかった。このようなブランド保護策は、重光産業にとって少なからぬ負担だ。
 
 だが、重光社長は「味千中国は、目先のカネの出入りでは測ることができないチャンスをわが社にもたらしつつある」と力を込める。
 
 というのも、味千中国の躍進ぶりを目にし、世界各国の華僑企業家から「自国でも展開したい」というオファーが相次いでいるためだ。
 
 これまでも、重光産業は北米やシンガポールなどにフランチャイズ展開をしてきたが、昨年になってドバイやオランダ、モンゴルなど、従来まったく縁のなかった国の華僑から、フランチャイズ契約の打診が相次いだ。いずれも、華僑人脈を通じて、急成長中の味千中国に関する話を聞きつけたのがきっかけだった。
 
 重光社長は振り返る。「単なる熊本の一企業が、独自にこれだけのネットワークを広げるのは不可能。味千中国があったからこそ」。08年には、少なくともモンゴルとオランダへの出店が実現しそうだ。また、台湾の新法人には味千中国が15%出資、現地での直営店展開を資金面で下支えしてくれているという。
 
 そもそも味千中国が生まれたきっかけは、当時貿易商を営んでいた潘社長が、偶然視察に訪れた熊本で味千ラーメンを知ったことだった。「この味をぜひ中国で展開させたい。絶対ヒットする」と父親であった先代社長を口説き落として、すべてが始まった。現地陣による経営を最重視するスタイルも、先代と重光社長が、「現地で骨を折る人にとってヤル気の出る、儲けを手にできる仕組みにしたい」と考えた結果だった。
 
 外食に限らず、中国に出た日本企業には、現地の人材から「貢献しても昇進や報酬の見返りが少ない」という低い評価が少なくない。味千中国の躍進が、今後重光産業に果実をもたらすようになれば、地方企業の中国展開に、一つの成功パターンを示すことになるかもしれない。
(週刊東洋経済:杉本りうこ記者)

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