「やりがい搾取」が問題化する直前の7年ほど前、筆者は文化、スポーツの部活を集中的に取材する機会を得た。ある媒体に「うちの高校の自慢の部活」を紹介するためだ。各校が推薦した全国の文化、スポーツ系の高校部活を取材して回ったのだ。
取材したほぼすべての部活の指導者、顧問は「休みは年に10日あるかないか」だと話した。「元旦とお盆以外はずっと部活指導」「早く帰宅するのは中間と期末テストの期間だけ、あとはサービス残業」などと話す。不満げな表情ではなく、自慢げでさえあった。
そして、必ず「家族の理解があるので」と付け加えるのが常だった。
さらに「女房とは新婚旅行以外に旅行に行ったことはない」とか「新婚旅行の途中で、選手の試合を見に行った」「部活を優先するために子供の運動会には行ったことがない」などの話をあたかも「武勇伝」であるかのように言うのだった。
嬉々としてサービス残業を語る指導者
筆者は息苦しさを感じたが、多くの先生は「でも、授業の準備をしっかりして、学校行事の仕事もして、そのうえで部活の面倒も見るんだから、どうしたって休みなんか取れないじゃないか」と言った。残業代は当然出ない。これこそが「やりがい搾取」なのだが、先生方はそれを嬉々として話すのだ。
このように書くと、これらの部活指導者は「熱血」で「スパルタ」「オラオラ」の、「昭和の指導者」であるかのような印象を受けるかもしれないが、意外なことにそういう指導者は当時でも少なかった。
体育会系であれば、最新のトレーニング法を学び、新しい機器もそろえて選手に無理な負荷がかからないように練習させる。「マッサージ」の仕方についても学んでいる。また「コーチング」を専門に学んでいる指導者も多く、選手に笑顔で接し、彼らの能力を伸ばそうとする指導者が多かった。
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