89歳の母を見送った家族に残った「清々しい記憶」 悲しみのかわりに残った"かけがえのないもの"

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メール受信後に山口さんが電話をすると、原山さんの母親は約2カ月前から熱中症で緊急入院していた。ようやく平熱に戻り、退院に向けた話し合いをしようと思っていた矢先、新たに肺炎を発症。主治医から一転して「今日か明日か」と知らされたらしい。

「もうびっくりして、思わずメールしちゃいました」

原山さんは涙声まじりでそう話した。

母と娘がホッとできた月1回のドライブ時間

実家でずっと過ごしたかった母親を施設に入れてしまった……。

原山さんは2020年の秋以降、その後ろめたさをずっと引きずっていた。2男1女の3人兄妹で、長男は実家敷地内に家族と別に住んでいたが、一人暮らしの母親の面倒は、長男夫妻と原山さんが見ていた。次男は県外で暮らしていた。

孫のマラソン大会応援時の原山さんの両親(写真:原山さん提供)

「元気な頃の両親は、ジャガイモやネギを実家の敷地内に畑をつくって収穫したり、マレットゴルフ(木づちを意味する「マレット」と呼ばれるクラブを使うゴルフ)も一緒に楽しんだりして、仲がよかったんです。母は社交的な人でした」(原山さん)

約8年前に父親が他界。さらに約4年前に近所の仲良しだった女性が急逝すると、母親は体調の不安をたびたび訴えるようになった。

「近年は電話してきては、『腰が痛い』とか、『さみしい』と言って泣き出すこともあり、私が深夜に行って一緒に寝ることもありました」(原山さん)

エアロビクスのインストラクターとして日中働いている原山さんは、深夜の母親からの電話を、次第に心身ともに負担に感じるようになっていった。

「寒いから冬場の間だけお世話になって、春になったら実家に帰ろう」

原山さんはそう説得して、母親を老人施設に入所させた。

ところが新型コロナウイルスの感染再拡大期と重なり、入所以降の面会は一切禁止に。原山さんは自分を責めた。その後、血液疾患で長年通院している病院での検診を理由に、施設から許可を得て、原山さんは母親を施設から車で毎月1回連れ出していた。

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