心臓の機能低下で足のすねが紫色になる
看取り士の藤原利恵子は、その日が初対面の85歳の女性から、「脚が痛いのでさすってほしい」と言われた。女性宅を訪問したのは2022年11月中旬。
女性は1年前に心不全になった後、心肺機能が低下。血液中の酸素が不足して色が青みがかり、皮膚の表面も青っぽく見える「チアノーゼ」と呼ばれる症状だった。そのために皮膚も弱く、もろくなっていた。
看取り士はさすることはしない。終末期にある方の皮膚はもろく、さすると表皮剥離を起こす可能性があるためだ。
「その方も手で小さな圧を加えると、肌が内出血する危険性がありました。ですから、ご本人に必ず『おなでしましょうか』と伺い、すねなどに休み休み触れさせていただくと、気持ちよさそうな表情をされました」
藤原は手を女性の脚に置き、ゆっくりと移動させながら時間をかけて、温もりをそーっと伝えていった。
女性は60歳で脊髄小脳変性症という難病を発症。小脳が萎縮し、運動機能が低下する病気だ。歩行時のふらつきや、ろれつが回らないなどの症状が出る。幸い、病気の進行はゆるやかだったが、約1年前からは寝たきりだった。要介護度5の最高レベル。
「私からお尋ねすると、ご病気のせいか、お答えが聞きとれないことも多かったですね。それでも『触れさせていただいてもいいですか?』と言うと、私の手を温かい手でぎゅっと握り返してくださって、うれしかったです」
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