東京の「出生率0.99」を騒ぐ人に欠けている視点 若者はお金がなく婚姻数の減少が加速していく

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すでに子のいる夫婦にとって、それがインフレを起こそうが子にかける予算を減らすことはないでしょうが、それは、これから結婚するであろう若い独身男女に「結婚や子育てはお金がかかる」という負の刷り込みを与えます。結婚や子育てはコストの高い贅沢品と化すわけです。

そして、刷り込みは、それを物ともしない大企業正社員の独身を除けば、多くの中間層の若者に「とても自分の経済力では無理だ」という諦観と消極性を呼び起こし、婚姻数の減少を招きます。

それが2015年以降の大きな婚姻数の激減と未婚人口の激増につながっています。人口増減を考慮した婚姻数も、東京以外はすでにずっと下がり続け、2020年には1995年対比3割減にまで落ち込みましたが、2005年まで唯一プラスだった東京ですら婚姻数が激減して、東京も地方と同レベルにまで低下してしまいました。

東京の婚姻減は「お金がない」ことが問題

そして、残念ながら、今後は、東京の婚姻数の減少がさらに加速していくだろうと考えます。だからといって、婚活支援やマッチングアプリの提供などに意味があるとはまったく思いません。東京の婚姻減は、地方のように「出会いがない」という話ではなく、言ってしまえば「結婚や子育てを東京でするお金がない」ことだからです。住居費ひとつとってみても、若い20代世帯主の家族が暮らしていける値段ではありません。

2015年あたりを境に、結婚可能年収のインフレが確実に起きています。世帯年収900万以上の児童のいる世帯数はまったく減っていませんが、かつて結婚のボリューム層だった中間層年収の結婚だけが激減しているのです。

加えて、長年にわたってじわじわと値上げされている社会保険料などの国民負担率の増加で、実質可処分所得が大きく減っています。今年からさらに子育て支援金などの負担が増えました。80年代の若者と今の若者とでは額面給料が一緒でも手取りは大きく減少しています。ただでさえインフレの結婚が手取りの減少でますます遠ざかります。

今の高齢者世代からすれば「結婚なんてお金の心配などせずに当たり前のようにできたものだった」と思うかもしれません。しかし、今の若者にとっては「結婚どころか日々の暮らしと将来のお金の心配しかない」という状況で、とても結婚どころではないのではないでしょうか。

婚姻減は出生減に直結します。東京にとって、出生率0.99の今が最悪なのではなく、むしろこれからが暗黒期に突入すると考えたほうがよいでしょう。

荒川 和久 独身研究家、コラムニスト

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あらかわ かずひさ / Kazuhisa Arakawa

ソロ社会および独身男女の行動や消費を研究する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、がある。

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