TSMC劉・前会長が語る「TSMCが次に目指すもの」 国際政治の荒波を乗り越え「世界のTSMC」になった秘訣

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劉は一時、同社は親米なのか親中なのか問われ、旗色を鮮明にすべきと答えを迫られることがあったという。しかし、今では次のように、明確に答えている。

「私たちには旗色を明確にするというような問題は存在しない。国際政治はつねに変化しており、将来、世界がどうなるかなど誰も予想できない。TSMCとしての第1目標は自立、存続し続けること。すべては顧客や株主、従業員の利益から考えるべきだ」

 

親米・親中ではなく、自立すること

エンジニア出身の劉にとって、国際政治の動向も重要だが、より大切なのはTSMCの技術力の引き上げだった。

「世界が刻一刻と変化する中、他社を圧倒する技術力を有することは絶対条件だ。技術力がなければ、顧客はわざわざ台湾を選ぶ必要はないだろう」

 

そのような中で他社を大きく引き離すことができたのは回路線幅「7ナノメートル」を達成できたことだった。

「TSMCにとって7ナノはターニングポイントだった。初めて私たちが世界に最先端の技術を提供できた瞬間だった」

 

それ以前は、最新技術と言えばサムスン電子やインテルなどの垂直統合型IDM工場からの提供だった。

しかし2018年に同社が7ナノの開発に成功すると同年には量産段階に入り、以降は世界一に躍り出る。当時、新たな製品や市場、業務の戦略を担当するビジネス開発部門にいた劉にとって、10ナノではインテルに負ける、同時開発で7ナノに取り組むべきだというものだった。

これを提案した際、社内の研究開発チームから多くの反対意見が上がったという。通常、研究開発ではどのようなレベルの事ができるかを元に、どうやるかを考える。しかし劉は市場やニーズから考慮すべきだとしたのだ。

異論が湧く中、劉は提案を張のところに持って行き直談判する。そして「ファウンダーが同意した」として7ナノ開発が始まったのである。

通常、開発には2、3年かかるが、TSMCは周囲がまだ動き出していないうちに開発を進めたこともあって1年で完成させる。

当時、サムスン電子も7ナノの開発に成功し提供を開始したが、顧客のクアルコムで発熱不具合が頻出。TSMCが再受注する状況になったのだった。

劉は努力の末に獲得した世界一の技術力は、向こう10年は誰も追いつけないだろうと自信を見せている。

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