TSMC劉・前会長が語る「TSMCが次に目指すもの」 国際政治の荒波を乗り越え「世界のTSMC」になった秘訣

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そのような中、TSMCは重要な決定を下す。TSMCは絶対に法規を遵守するというものだ。実はこの決定が、その後の同社の方向性を決定付けるものだったのだ。

TSMCはアメリカで最初の事務所をワシントンD.C.に開設すると、ただちに法務関連の業務を強化する。アメリカが貿易管理を強化する中で、仮に何かが輸出できないことになれば、これらの法務部門が即時に対応できるようにするためだ。

「アメリカ行き」を決定したランチミーティング

2019年からアメリカでの工場開設について見えないプレッシャーに見舞われ続けたTSMC。だた当時、同社は態度をはっきりさせていなかった。最終的にアメリカで先進工場を開設すると公にしたのは2020年5月。世界に大きな一歩を踏み出したと同時に、想定された異論がすぐに巻き起こった。

「TSMCでは張が董事長だった時代から、仮に取締役会で共通認識を得られない場合、その案は撤回されるのが慣例だった」

エイサーグループの施はこのように語る。つまり経営陣の間で海外進出を受け入れられない事案は、取締役会にも上らないということだ。そして2020年5月の取締役会のことを次のように振り返る。

「取締役会の前日の夜、董事長は取締役らと一緒に食事し、会議での重要議案について話し合う。そして、劉はアメリカ進出計画について提案し、取締役らは世界の流れがそうであり、妥当との認識に至ったのだ」

TSMCの立場から考えれば、顧客はアメリカ進出を望んでおり、市場の要請があるのであれば、多少の利益を度外視してもアメリカに進むべき。そしてTSMCはもともと多くの在米華人らが台湾に持ち込んだ歴史的経緯もある。アメリカに投資する一方で、核心技術や知的財産権は台湾が握るということで考えがまとまった。

TSMCのアメリカ進出の重要性について、外国貿易協会の顧問である李牮斯は2つの点で重要だと分析する。1つ目は先行者利益である。半導体工場の設立には巨額な投資が必要なため、初期の製品単価は高くなるのが一般的だ。

ただ、その後、他社が進出した場合の価格競争に耐えうることができるというのだ。2つ目は顧客が思い描くファウンドリー業者の将来的なあり方について。現在の技術が極限に達し、技術競争からビジネスモデルの競争に変わった時、顧客のそばにいることで細かいサポートが可能となり、重要度が高まると考えられるのだ。

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