TSMC劉・前会長が語る「TSMCが次に目指すもの」 国際政治の荒波を乗り越え「世界のTSMC」になった秘訣

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そしてある時、顧客から「貴社はできるならアメリカに来てほしい。アメリカで存在感を示してほしい」と直接伝えられたのだ。その際、劉はファウンダーである張忠謀が2019年11月に語った言葉を思い出したそうだ。

「世界が再び混乱に陥れば、TSMCは誰もが欲する存在になる」。張がこの言葉を発した当時の台湾の反応は、戦地になってしまうことを恐れるどころか、世界から注目されるのだと大いに歓迎された。しかし劉は、世間の熱狂とは一線を画し、間もなくやってくる混乱の世紀に警戒を高めていたのだ。

台湾やTSMCに大きな災難が降りかかってくるかもしれない。大きな災難とは言い過ぎかもしれないが、劉らがそれほど警戒していたのは確かである。国際政治の大変化に対し、同社はどのように向き合うべきなのか。劉は暗中模索の中、流れに身を任せることに決める。

そして劉と魏哲家は、2018年6月にそれぞれ董事長と総裁(社長)に就任。先の見えない時代で、TSMCは張のワンマン経営から二巨頭による共同経営体制に移行。世界のTSMCになるべく一歩ずつ歩み出したのだった。

劉会長にかけられたプレッシャー

2019年初め、TSMCはピーター・クリーブランドを副総経理に迎える。同氏はインテルでトップロビイストを務めただけでなく、議会上院でスタッフとして勤務した経験もある。同社はこの頃から各国政府との電話でのやり取りが多くなっていった。

劉は同年6月にアメリカ商務省が主催する「セレクトUSA 投資サミット」に参加する。その際、政府高官からのアメリカ投資へのプレッシャーを感じたという。エイサーグループのファウンダーである施振栄は、当時の劉らの様子を次のように振り返る。

「劉董事長のプレッシャーはアメリカに行くかどうかを決めることだった。またそれに対応するため、魏総裁も顧客に向き合わなければならないプレッシャーに駆られていた」

2019年といえば、中国の通信大手の華為(ファーウェイ)がアメリカから制裁を受けた時期に相当する。同年5月には商務省の制裁リスト入りし、TSMCや協力各社も渦中に巻き込まれた。

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