というのも、Aさんは新卒採用時に、私が面接を担当し、最終的に内定を出した人物。爽やかな好青年で地頭も良く、入社後も研究開発に熱心に取り組んでいた。すでに将来のリーダー候補として名前が挙がるほど、部門内でも一目置かれる存在。それだけに、この一件はショックが大きかった。
役員はひどくあきれた様子で、「この件は人事に任せるから、Aに事情を聞くなり、なんとか収めてくれ」と一言。私は事情を把握すべく、早速Aさんにヒアリングを試みた。
将来有望な若手の評価はダダ下がり
Aさんに手紙と招待状を見せると、一瞬で顔が青ざめた。「これってどういうことか、聞いてもいいかな?」と問いかけると、ポツリポツリと事情を明かした。
Aさんによると、手紙の送り主は、数年前から交際していた社外の女性で、婚約していたことも、破談になったことも事実だという。
だが、本題はここからで、「破談になったのは、婚約中に別の女性と関係を持ってしまい、その女性の妊娠が発覚したことが原因だ」というのだ。
さらに驚くべきは、妊娠した女性が、同じ研究開発部の社員Bさんだということ。Bさんもまた新卒採用時に私が面接を担当し、内定を出した期待の新人だけに、ダブルの衝撃で口に含んだコーヒーを噴き出しそうになった。
「実は婚約していたこと、Bさんは知らないんです……。でも、責任もってBさんと結婚したいと思っています」と、蚊の鳴くような声でつぶやくAさん。
応援していいんだか、悪いんだか、よくわからない告白に困惑したが、ともかくこの件はBさんの耳に入らないよう「トップシークレット扱い」にしなくてはいけない。妙な正義感が湧いた。
私は「元婚約者の女性に対してはどうするつもりか?」と聞くと、「もう一度話し合って、誠意をもって対応をします」という。その後、無事に話し合いの場が持たれて解決したと聞き、ホッと胸を撫でおろしたが、それで一件落着とはいかなかった。
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