そして修正をするためには、目標設定が必要です。浩介氏は「目標設定は一度行えばおしまいというものではありません。目標やプロセスは時とともに進化し、どんどん形を変えていくものです。ですから、目標設定は常に見直し、書き直していく」と、状況対応能力の必要性も示しました。
大儀見選手のさまざまな場面での発言には、夫からのメンタル面についてのアドバイスが大きく作用していることがうかがい知れます。
準決勝のイングランド戦は、川澄選手が右サイドを駆け上がり、それに反応した大儀見選手にパスが出たところを、相手ディフェンダーのバセット選手がオウンゴールするという、衝撃的な結末でした。
この場面について大儀見選手は、こう振り返っています。「終盤は相手も足が止まってきていた。 (バセットは)苦しそうな顔をしていた。自分もキツイ状態だったけど、スプリントをすればチャンスが来ると思った。もちろんラッキーだった部分もある。でも、事故みたいな形でも、1チャンスは絶対来ると思っていた」。
「前の私なら、イライラしてしまっていた」
さらに、大儀見選手はこうも述べています。「前の自分なら(ボールが前線に来ないことに)イライラしてしまっていた部分もあったと思うけど、そこを我慢できるようになってきた」。なるほど、大儀見選手は4年前のW杯では、感情のコントロールに苦手意識があったようです。
夫・浩介氏も、著書の中で同じような分析をしています。
「2011年の女子ワールドカップで、なでしこジャパンは優勝しましたが、エースと期待された優季は1ゴールに終わりました。このときは、マイナス思考が強く、『いいパスが来ない』と周囲のせいにしがちでした。
しかし、翌年のロンドンオリンピックでは、3ゴールをあげ、日本の銀メダルに大きく貢献しました。このときはプラス思考が大きくなり、周りを活かすことの大切さに気づき、求めるものも結果ではなく『自分を成長させること』に変わっていました」
旧連載の第2回「優れたパフォーマンスを発揮できる思考とテクニック」でも述べたことですが、「悪者探し」は建設的ではありません。パフォーマンスの発揮にも支障を来たしますし、ソリューション(問題が解決された状態)に至る最短距離とは言えないでしょう。
「過去は変えられない」「他人は変えられない」と、事実を粛々と受け容れ、今自分がやれることに集中する。すると、「なりたい理想」に近づくために、現状と理想のギャップを埋める努力をするようになるのです。
このようなメンタル面のポジティブな変化が、今回のW杯準決勝、決勝での大儀見選手の活躍につながっていることは確かです。
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