途中のバス停で降りてしまったのだろう。
こんな辺境の地を旅する数少ないバックパッカー仲間として、せめて一言くらい挨拶してくれればいいのに、と、少しばかり寂しく感じた。きっと、本当はシャイな奴なのだろう。
美しい景色は高地に生きる人々の営み
俺たちは遠くに広がる雄大な岩山の斜面に位置するナコの村を目指して、一本のアスファルト道を歩き始めた。
村の背後にはレオ・プルギル山がそびえ立っていて、その山を越えれば、そこはもうチベット自治区だ。歩みを進めると、緑の美しい段々畑が目に入ってきた。
岩山の斜面にわずかばかりの平地を見つけ、村の人々はそこで辛うじて農業を営んでいる。広大で無機質な岩山の茶色と、人間の生活の営みが作り出した小さな緑色のコントラストがひときわ目を引く。
過酷な自然環境の中で「生きる」ことへの強い意志が、その景色に一層の輝きを与えているようだった。
村に到着した頃には、すでに夕方の4時を過ぎていた。陽が落ちる前に、今夜の宿を見つけなければならない。
これまでの旅の経験から言って、田舎に行けば行くほど、保守的な人々が多い傾向があった。こんな辺境の村で、異国の訪問者を迎えてくれる場所などあるのだろうか。不安が胸をよぎる。
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