男が英語で話しかけてきた。
「はい。さっきムドからバスでやってきたんですけど、今晩泊まる宿がないんです」
「じゃあ、離れに空き家があるからそこに泊まればいい。お金を少し頂くけどいいかい」
「はい、もちろんです。助かります」
男がここまで連れてきてくれた若い女性に経緯を説明すると、彼女は顔をくしゃっとさせて笑顔を見せた。そして、何も言わずに手を振って家の方へ歩き出す。
俺たちは「ありがとう」と何度もお礼を述べたが、彼女は恥ずかしそうな笑みを浮かべ、そのまま去っていった。助けてくれた村人たちは、決して口数が多いわけではないが、皆、素朴で人のよさが表情から滲み出ていた。
大きなベッドが一つだけの質素な部屋
案内された部屋はお世辞にも綺麗とは言い難かった。土の床の上に麻っぽい布が敷かれていて、砂や土埃で汚れている。
その上に大きなベッドが一つだけあり、誰かが飲んだビールの空き瓶とペットボトルがそのまま残されていた。部屋のドアには鍵もない。
それでも、今夜、雨風をしのげる部屋があるのに内心ホッとした。
「ここでいいかい?」
男が質問する。
「カナさん大丈夫?」
ベッドが一つしかないので気を使って聞いた。
「大丈夫です。ありがとうございます」
男が去った後、「ベッドは広いから端と端で眠ればいい。その辺は安心して」と伝えると、カナさんは少しホッとした表情を見せた。
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