世界36カ国を約5年間放浪した体験記『花嫁を探しに、世界一周の旅に出た』が話題を呼んでいるTVディレクター・後藤隆一郎氏。
その後藤氏が旅の途中で訪れた、ヒマラヤ山脈にある辺境の地、チベット仏教の聖地「スピティバレー」で出会った「標高4000mに暮らす人々」の実態をお届けします。
*この記事のつづき:"日本人女性"も巡礼「チベット仏教聖地」驚く世界
たどり着いたのは「電波の届かない」辺境の街
カザに到着したのは、午後4時を過ぎた頃だった。
空は透き通るような深くて濃い青色なのだが、街全体は妙に薄暗い。太陽が傾き、四方に囲まれた山々の影に入ってしまったようだ。
到着する前にスマホをチェックしたが、インド北部では使用できたSIMの電波は完全にオフになっている。「まぁ、そうだろうな」とは思っていたが、やはり、ここではネットは使えないらしい。
運転手と別れの握手をし、20キロのバックパックを持ち上げると、いつもとは違うズシリとした重さを感じた。足を踏み出してみると、太腿が鉛のように重い。
カザの標高は3650mで、気圧が低く空気中の酸素濃度がかなり薄い。車に乗っているときとは違い、荷物を背負い実際に歩き出すと、わずかな坂道でもかなり息が上がってしまう。
気温はおそらく10度前後だが、太陽の光がなくなってから急激に冷えてきている。俺はバックパックを開き、ダウンジャケットを取り出した。暗くなるまでに、今晩泊まる安宿を探さなければならない。
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