街の中心辺りで、チベット語と英語で書かれた小さな木造の観光案内所の看板を見つけた。
案内所にはスピティバレー全域の村の地図と、ヒマラヤに生息している野生動物のイラストが描かれた看板がある。
熊やキツネ、ヤク(標高4500〜6000mの高原に生息する絶滅危惧種の毛の長いウシ科の動物)、マナリの旅宿にあった写真集で見つけたユキヒョウの姿もあった。
絶体絶命、野宿の危機に現れた救世主
「ここなら宿の情報を持っているに違いない」
室内に入り、「エクスキューズミー、ハロー」と声をかけるが返事がない。どうやら無人案内所らしい。よくよく考えてみると、日が落ちてしまった時刻に、ほとんど観光客のいないこの街で、有人の観光案内所なんてある訳がない。
すれ違う人の顔つきや洋服を見ると、観光客や旅人はおらず、100%この辺りに住む人々だ。顔が平たいチベット系の人々に交じり、皮膚が浅黒く鼻が尖った、インド北部のアーリア系の顔つきの人々もわずかに交じっている。
道ゆく人に「ゲストハウスはないか?」と尋ねるが、「知らない。他の人に聞いてみて」という返答ばかりだ。こんな辺境の街で、初日から野宿なんてしたくないので、英語で書かれたHotelやGuest Houseの看板を探し、辺りをさまよった。
もう、四方の山々の上空の明かりが消え、夕方ではなく夜になっている。気温はさらに下がり、ダウンジャケットを着ていても寒い。夏とはいえ、富士山の頂上に近い高さの街なのだ。
「まぁ、なんとかなるでしょう」
かなり良くない状況を覆い隠すように、自身を奮い立たせた、そのときだった。
「ごっつさん」と遠くのほうから、日本人女性の声が聞こえてきた。
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