インド縦断旅をしていると、バスや列車を降りた途端、観光客目当ての胡散臭い男たちがたくさん寄ってきて、「安い宿があるよ」と高額の宿を勧めてくることがよくあった。
しかし、ここにはそんな人が一人もいない。
それはとてもありがたいのだが、誰もいないとなると、なんだか妙に寂しく、あの鬱陶しさが懐かしくも感じられる。
ほとんど何も調べずに来てしまったが…
「ここに旅人を受け入れる宿などあるのだろうか」
時間が経つとともにより深みを増す紺碧の空と山陰に覆われた静かな街が、俺の不安を増幅させた。
インド北部の街マナリにいたとき、レー・ラダックへの旅情報はかなり入ってきたのだが、スピティに関する情報はブログなど数件しかヒットしなかった。
英語で書かれたウィキペディアをざっと眺めてみたが、カザに関する詳細な情報は限られているようで、途中から調べるのが面倒くさくなり、リサーチをやめてしまった。
つまり、ほとんど何も調べずにこんな辺境の街に降り立ってしまったのだ。
ただ一人だけ、世界を5年近く放浪しているカナさんという30代くらいの日本人女性が数週間前にスピティに旅立ったという情報を得ていた。
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