しかし、「この行き当たりばったり感が旅の醍醐味なんだ」と自分に言い聞かせながら、村の中へと足を踏み入れた。
ナコ村は、スピティの始まりの村であるカザや、ピンバレー国立公園へのトレッキング客がよく訪れるムド村に比べて、圧倒的に閑散としていた。
人がまったく見当たらない閑散とした村
すでに5分近く散策しているが、すれ違うのはロバや牛などの動物ばかりで、村人の姿は一人も見当たらない。まるで、すべての人間がこの村から消えてしまったかのようだ。
長細い石が多いのが印象的で、狭い石畳の脇には城の石垣のように石が積み上げられて壁を造っている。
民家の造りは土と石を基礎にした長方形で、屋根には茅葺が積まれていた。村のあちこちにチベット仏教の象徴である赤、白、緑、黄、青の5色の旗タルチョが掲げられ、この地に信仰が深く根付いていることが一目でわかる。
しかし、家だけでなく、タルチョさえも老朽化していて、村全体から古ぼけた印象を受けた。
しばらくすると、急に雲が出てきて、どんよりと暗くなってきた。静かすぎる村に物悲しい雰囲気が漂う。まるでホラー映画「八つ墓村」のように、誰かが窓からよそ者をじっと観察しているのではないかとさえ思えた。
「ごっつさん、宿らしきものがないですね」
カナさんも少し不安を感じているのが、声の響きからわかった。
「まぁ、なんとかなるっしょ」
不安を悟られないよう、明るく振る舞い、自分自身を鼓舞した。
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