「ガンジス川の水」で作ったチャイを飲んだら 死が日常に同居するインドで受けた衝撃
旅は、「場」を変える最良の手段のひとつ
同じ人であっても、「場」が変わるとまったく違う振る舞いをするものです。自宅と職場では別人のように見える、という人は何ら珍しくないでしょう。「場」の変容が人にもたらす変化は、ときにネガティブな意味合いを帯びることもありますが、それを前向きな意味で実感できるのが、旅です。そしてときに旅は、心身にも不思議な影響を与えることがあります。
20代のころ、バングラデシュ〜インドを3カ月ほど旅しました。
最大のきっかけは、三島由紀夫と横尾忠則のある会話を知ったことでした。自決の3日前、三島は横尾忠則との電話の中でこう言いました。「インドには行ける者と行けない者がいるけれど、君はそろそろインドに行けるんじゃないかな」。これは、三島由紀夫自身の写真集『新輯版 薔薇刑』の中に、横尾忠則が三島の死を暗示するかのような涅槃図を描いたことへの驚きからかかってきた電話で交わされた、会話の一部です。
結局、横尾さんはミュージシャンの細野晴臣さんと一緒にインドに行くことになり、『インドへ』(文藝春秋、1983年)という本も出版することになったのでした。それを読みながら私は、「自分はインドに行ける者なのだろうか」と考えたあげく、実際にかの地を訪れることにしたのです。
インドの旅では、学生旅行だったためお金もなく、一番安い電車で横断することにしました。4等列車のようなところにいたのですが、とにかく人がどんどん乗ってきて、文字通り溢れていくのです。そのうち分かったのは、一番の特等席は天井近くにある荷物置き場だということでした。なぜならそれくらい狭いスペースであれば、他の人が入る余地がないからです。
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