「読者の7割ばあちゃん」福岡の新聞ヒットの裏側 75歳以上が働く「うきはの宝」のリアルに迫る

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大熊さんとは5年の付き合いになるトキエさんが「大熊さんがあれしよう、次はこれしようと次々と新しいことを持ってきてね。でも、みんな自分にできることなら、ちゃんとやってるのよ。新しいことをするのは面白いから」と言うと、大熊さんは「ほら、スタンフォード大の教授のケンさんが、適度なストレスは健康にいいって言ってたでしょ」と応じる。

ケイ子さんが「好きだからできるのよ」と続けると、トキエさんは「この年になると、そのときそのときを精いっぱい楽しめればいいと私は思うの。大熊さんに対して、私たちも思ったことは何でもパーッと言うから、ストレスはないわ」とおおらかに笑った。

うきはの宝の代表の大熊さんは、2019年に39歳でこの会社を設立して、次々と新たな仕掛けを展開してきた。

農林水産省「INACOMEビジネスコンテスト」最優秀賞などを受賞し、数々のメディアでも紹介され、スタンフォード大学の教授が研究・取材に来たこともある。しかし「いやあ、自分としては成功にまだまだ遠くて……。人生をかけて頑張ります」と自らを鼓舞する。

うきはの宝 ばあちゃん新聞 福岡
うきはの宝株式会社 代表取締役の大熊充さん。「うきはの宝に出会ったことで人生が豊かになった、と言われることがうれしい」と満面の笑みで話す(筆者撮影)

大熊さんはうきは市の公務員一家に生まれ、「何となく生きづらさを感じる」幼少期だった。高校に進学するも中退し、大好きなハーレーダビッドソンに関わる仕事をしたくて、整備やカスタムなどの技術を学ぶ。

どん底の入院生活でおばあちゃんたちが支えに

しかし20代半ば、バイク事故で大けが。大手術を繰り返し、入院生活は4年ほどに及んだ。バイク屋になる夢は絶たれ、精神的にもどん底に。「まるで廃人だった」という大熊さんの心を動かした唯一の存在が、入院中のおばあちゃんたちだった。

「ばあちゃんたちは『なんで入院してるの』とか遠慮なくどんどん話しかけてくる。心を閉ざしていた僕はずっと完全に無視していたけど、ふと気づいたんです。長い入院生活を続けるうちに、話しかけてきたばあちゃんたちが亡くなり、ああ、命には限りがある、僕は生きているんだって」

30歳を前に退院して地元に戻り、働きたくて数十社に応募。しかし「不況のさなか、中卒の僕を雇ってくれるところはなくて。自分は誰にも必要とされていないとショックを受けました」。

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