しかし、85年においては、そうではなかった。製造業の比重は20・5%であり、現在の2倍近くあった。ほかの産業との比較でも、卸売り・小売り、金融・不動産、専門的サービスの1・5倍程度であった。つまり、アメリカでも、当時は製造業は最重要の産業であり、ほかの産業とは異なる「特別の産業」だったのである。
この25年間のアメリカの産業構造の変化は、比重の量的変化だけではなく質的な変化であった。経済政策においても、製造業の利益が最優先されることはなくなった。
それは、為替政策を見ても明らかだ。85年には、ドル高を是正するために国際的な為替介入が行われた(プラザ合意)。ところが、03年ごろ以降ドルが円に対して強くなったときには、アメリカ製造業を保護するために介入が行われるといったことはなかった。
また、80年代には、日本との貿易摩擦は重要な案件だった。しかし、03年以降、日本からの自動車の輸入が増えても、また中国からの軽工業製品の輸入が増えても、それが重要な経済問題として取り上げられることはなかった。
80年代には、「日本からの輸入の増加によってアメリカが潰れる」と多くのアメリカ人が考えた。しかし、いまアメリカの輸入がいくら増えても、それでアメリカが潰れると考える人はいない。
これに対して、日本における製造業の比重は、85年で28・1%、09年年で18・0%である。製造業の比重が10%ポイント程度下がった点ではアメリカと同じなのだが、比重の絶対値は、80年代のアメリカとほぼ同じ水準である。つまり、製造業は日本経済における最重要の産業だ。
現状維持の政策がこれからも続く
日本では、「ものづくりこそ経済活動の基本であって、サービス産業はそれを支える補助的なもの、だから経済の主役になることはできない」と考えている人が多い。しかし、貿易が可能な世界においては、そうではないのである。新興国が工業化したことを踏まえて、先進国の比較優位がどこにあるのかを考えることが必要である。