対話の現場/予想外の反応の価値 対話が成立する要件

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ポーランドの地方都市のスーパーで、買い物をしたときのことだ。レジの中年女性が、険しい表情と厳しい口調で、何事かを早口で言った。私は片言のポーランド語で問い返す。すると、彼女は目をむいて、同じ言葉を何度も繰り返した。

困った。ポーランド語はあいさつくらいしかできない。彼女もポーランド語以外はできないらしい。そうこうするうちに周囲に人が集まってきた。トラブルの予感がする。そのとき、学生風の若い男性が、私の耳元で英語でささやいたのだった。

「彼女は、英語で言えば『ハッピーニューイヤー』と言っているんだ」

そういえば、今日は大みそかだった。大みそかに「ハッピーニューイヤー」と言い合うのは、ごく一般的な慣習。そのことは知っていたが、彼女の表情と口調から、別のメッセージを読み取ってしまったのだ。また、片言のポーランド語を使ったのもまずかった。慣習どおり「ハッピーニューイヤー」と言って、「いま何と言った?」と問い返されたら、さぞびっくりすることだろう。

私は彼女に日本語で「よいお年を!」と言った。すると、彼女は険しい表情(もともとそういう顔なのだろう)をちょっと和らげ、泰然とうなずいたのだった。

相手の言動を予測する 「独白」と「対話」

一般に交渉においては、相手の言動を読むことが重要とされる。相手が何を言うか、どういう行動を取るかを完全に予測できれば、交渉を有利に進めることができるからだ。

だが、厳密な対話論においては、相手の言動を完全に読み切った状態、つまり相手が自分の予想どおりに発言したり行動したりすると、「対話は成立していない」と解釈する。

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