対話の現場/「普通」とは何か? 対話的活用法と排除法

ここでは「共産主義は怖いものだ」という、当時の「普通」の感覚を喚起しつつ、「ベトナムに共産主義政権が樹立されれば、自由と生命が破壊される」という前提を省略している。また、「自由と生命を守る」という、明示された理由付けは、アメリカ人の「普通」の感覚では反論しにくい。徹底的に「普通」を利用した説得術なのだ。

この事例からも明らかなように、疑わしい前提を意図的に隠すことによって、相手が疑念を抱くことを防ぐことができる。だからこそ、説得において効果的なのだ。

だが、説得される側にとっては、極めて危険である。何が隠されているのか。隠された前提の正統性は認められるのか。注意してかからないと、容易に丸め込まれてしまう。

もう一つ。「普通」にわかることを省略したまま、無批判に放置すると、創造性が失われる。

ベニテングダケという毒キノコがある。「ベニテングダケは毒キノコなので、食べてはいけない」。この言葉には、たとえば「毒を食べると病気になる」「毒を食べてはいけない」といった前提が省略されている。言うまでもなく、「普通」にわかることだからである。この言葉に従っていれば、安心安全な生活を送ることができるだろう。だが、新しいものは何も生まれない。

毒を食べれば絶対に病気になるのか? この疑念がなければ、毒を薬に転じる発想は生まれない。毒を食べてはいけないのなら、毒を抜けばいいのではないか? 省略された前提を検証することで、初めて創造的な解決策が生まれるのだ。

「普通」であること その安心感と暴力性

自分の感覚や思考が「普通」であることがわかると、ちょっと残念ではあるが、大体は安心感が得られるものだ。「まっとうである」ことが証明されたような気がするし、何よりも社会的な多数派に属していることが安心なのである。主張するときは、多数者の支持を期待できる。都合が悪くなれば、多数者の陰に隠れてしまえばよいのだ。

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