日本企業が中国で直面する「目詰まり」の正体

その在庫管理は適切ですか

少し肌寒いせいか、沢木が咳をしたところ、オーナーは沢木を管理人室に連れていってくれた。オーナーは、石油ストーブで湯を沸かしてカップラーメンを作ろうとしている管理人に、「少し場所を借りるね」と断って沢木に椅子を勧めた。

沢木は石油ストーブを見やって、段ボール箱が積みあがっている倉庫で火を使うなんて……と絶句してしまった。

「張君、いまわれわれが取引している代理店は120あるんだよな。その中で、今日の代理商の経営レベルは、もちろん下位に相当するんだろうね」

空港に向かうタクシーの中で、祈るような気持ちで張に聞いた。

「残念ながら……私の訪問した代理商は、どこも似たり寄ったりです」

「なんだって!? こんな状態の代理店があと120もあるのか。これをひとつずつBPR*(ビジネスプロセス・リエンジニアリング=既存の業務の構造を抜本的に見直し、業務の流れを最適化する観点から再構築すること)していくのはたいへんだぞ……」

沢木は思わず頭を抱え、次の瞬間、久保田の電話番号を押し始めた。(続く)

過剰在庫がもたらす負の影響

 一般的に、代理商は在庫を多く持とうとしがちである。在庫は売り上げの原資であり、多く抱えることでより大きな売り上げを作れるという意識が働きがちなのだ。ただし、市場動向や倉庫のキャパシティを無視した“過剰”な在庫を卸が抱えることで、メーカーにとって大きな負の影響をもたらすことになる。

ひとつは、過剰在庫を持つことで倉庫代や利子などの余計なコストが発生し、代理商の利益率を低下させるということだ。それは巡り巡って、代理商からのリベートの値上げ要求という形でメーカーの利益率にも跳ね返ってくることになる。

2つ目は、市場と連動したスムーズな商品の入れ替えが難しくなるということだ。代理店はすでにたくさん在庫を持っていて、それを売り切るまでは新たな仕入れはしたくない(したくても、倉庫のキャパシティがなくてできない)。ただしメーカーは市場動向に合わせてすぐにでも切り替えていきたい。結局は、メーカーが在庫を買い取ったり、代理店が安売りしたりして大きな損失を出す結果となる。

3つ目は、経営の根幹を成す販売と生産の計画精度が落ちてしまうということだ。「作れば売れる」というフェーズをとうに脱した中国では、近年、販売計画と生産計画の連動が大きなテーマになっている。生産の過剰と過少を防ぐために、精緻な販売計画の作成が必須なのである。そして、精緻な販売計画を作成するためには、需要予測だけではなく、“流通在庫の把握”も重要だ。いくら店頭で売れていても、もし卸が過剰に在庫を抱えていれば、卸の倉庫から店頭に出荷された量と、結果としてのメーカーからの仕入れ量(メーカーにとっての販売)は連動しない。結果、大本の販売計画が狂い、自社倉庫は過剰在庫であふれかえる結果となってしまう。

次ページどのメーカーも頭を悩ませている在庫問題
政治・経済の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 新型コロナ、長期戦の混沌
  • 最新の週刊東洋経済
  • ドラマな日常、日常にドラマ
  • 晩婚さんいらっしゃい!
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
コロナでもブームは過熱中<br>不動産投資 天国と地獄

家計のカネ余りを背景に、マンションやアパートなどへの投資熱は冷める気配がありません。しかし、不動産投資にリスクはつきもの。先行きが見通せない状況で、何が優勝劣敗を分けるのでしょうか。現場の最前線を追いました。

東洋経済education×ICT