日本企業は、なぜ中国で「踊り場」にあるのか 実は、今こそが再成長のチャンスだ

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中国・上海の高層ビル街(写真:旅人/Imasia)
 今年1月、中国で日本政府が発行した訪日ビザは、昨年より7割多い約25万件で、その多くは春節期間中の観光目的だったそうだ。実際、2月に入るとさまざまなメディアを通じて、中国人観光客の旺盛な消費動向が伝えられ、その意欲や購買力をまざまざと見せつけられた。
 中国は今や購買力を備えた世界随一のマーケットであるが、中国で事業を展開する多くの日本企業は、競争激化や市場の複雑性に対処できず「踊り場」状態で、苦戦を強いられている。
 「チャイナ・プラスワン」の掛け声のもとASEANやインドに投資の軸足を移す日本企業も多いが、巨大マーケットである中国で安定的に利益を生む基盤をつくらなければ、今後、グローバル企業として世界の舞台で生き残っていくことは難しいはずだ。
 本連載では、日系大手メーカーに勤める架空の人物のフィクションのストーリーと共に、中国での再成長基盤の構築を模索する、多くの日本企業への実践的な処方箋を提示したい。

 

おとそ気分も抜けた1月末日。経営コンサルタントから日系大手メーカーA社に転じて5年目の沢木慶介(41)は、翌週の社長報告に向け、ASEANのブランド別収益についての分析レポートを作成していた。気鋭の経営企画課長として海外支社の収益管理をするのが沢木の仕事である。

「沢木、社長がお呼びだ」

突然、目の前の部長から声を掛けられ、沢木はキーボードをたたく手を止めた。

(社長が……?! 何の用だ)

社長室は港区のビル群を見下ろせる最上階にあった。いってみればグローバル作戦司令室である。といっても、質実剛健を旨とする社長のこと、内装はいたってシンプルなものであったが。沢木が入っていくと、100インチのプロジェクターの画面いっぱいに1枚のグラフが映し出されていた。

「おう、沢木か。これが何かわかるな?」

8年前の就任以来、海外進出を積極展開して売り上げを伸ばし、“中興の祖”として長期政権を築きつつある社長の尾崎(64)が、アームチェアに深く腰掛けた姿勢のまま問いかけた。聞かれるまでもない。海外担当として見飽きたグラフ。そう、グループ売上比率の実に2割を占めるも、ここ3年伸び悩んでいる中国事業の売上グラフだ。

次ページ「来週から中国に行って、“ダンス”を止めて来い」
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