おとそ気分も抜けた1月末日。経営コンサルタントから日系大手メーカーA社に転じて5年目の沢木慶介(41)は、翌週の社長報告に向け、ASEANのブランド別収益についての分析レポートを作成していた。気鋭の経営企画課長として海外支社の収益管理をするのが沢木の仕事である。
「沢木、社長がお呼びだ」
突然、目の前の部長から声を掛けられ、沢木はキーボードをたたく手を止めた。
(社長が……?! 何の用だ)
社長室は港区のビル群を見下ろせる最上階にあった。いってみればグローバル作戦司令室である。といっても、質実剛健を旨とする社長のこと、内装はいたってシンプルなものであったが。沢木が入っていくと、100インチのプロジェクターの画面いっぱいに1枚のグラフが映し出されていた。
「おう、沢木か。これが何かわかるな?」
8年前の就任以来、海外進出を積極展開して売り上げを伸ばし、“中興の祖”として長期政権を築きつつある社長の尾崎(64)が、アームチェアに深く腰掛けた姿勢のまま問いかけた。聞かれるまでもない。海外担当として見飽きたグラフ。そう、グループ売上比率の実に2割を占めるも、ここ3年伸び悩んでいる中国事業の売上グラフだ。
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