その週の金曜日、沢木と張、張の奥さんの3人が、外灘のフレンチ料理店で食事をする姿があった。3人はその生い立ちや、日中問題、趣味、会社の課題と改革の方向性に至るまで、実にさまざまな話をした。食後のコーヒーが運ばれてきたタイミングで、沢木は張と奥さんを交互に見つめながら切り出した。
「張さん、私の右腕として改革を手伝ってくれないか。この戦いは私ひとりでは無理だ。日中両方の語学とビジネス、そして文化に通じた人材が必要なんです」
張はコーヒーをひと口飲んで、言った。
「実は転職の話がまとまりそうなので、再来月くらいに辞めようと思っていました。ただ、本当は今日という日を待ち望んでいたのかもしれません。沢木さんなら、信頼できる。もう一度、あなたと一緒に改革に取り組みたいと思っています。志半ばで去るのは、中国人としてのメンツにもかかわりますから」。ニヤリと笑う張の目に光るものがあった。(次回に続く)
いいチームを作るためには
赴任してまず取り組むべきは、課題の整理でも改革案の策定でもなく、信頼できる部下や相棒を見つけること。自分の足りないスキルを埋めてくれる改革チームを組成することが何よりも重要だ。この際、肩書や経歴で判断を誤らないようにしたい。お愛想がうまくても「面従腹背」の部下など百害あって一利なし。特に中国語ができない場合、通訳の存在は非常に重要となる。目と耳になって現場の課題を詳細に把握してもらうには、純粋な日本語能力に加えて、相応のビジネス知識が必要となる。
加えて、改革の方向性を現場に伝える際も、微妙なニュアンスの違いで誤解され、ひどいときには労働争議に発展する場合すらあるため、言おうとしていることの文脈理解力も欠かせない。
また、現場に受け入れられるだけの愛嬌やコミュニケーション力も必須である。多くの企業は通訳に大卒新人を充てるケースも多いが、単に日本語力だけで通訳が務まらないことは明らかだ。優秀な通訳には、経営幹部クラスの年棒を払ってもまったく惜しくない。
さらに、いいチームをつくるためには、日本人の側も、中国を受け入れようとする姿勢が重要になる。中国と日本の違いを強調し、つねに文句や批判を言っている日本人は敬遠される。言葉もカルチャーも、リスペクトして受け入れる姿勢がまずは求められる。
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