中国の圧力が続くなか、頼清徳政権は大規模な防衛力強化策を発表し、2030年までに防衛費をGDP比5%へ引き上げる方針を出した。これは、従来の台湾の政策枠を超える大胆な提案である。内容はAI活用、防空網の再編など、自主防衛産業の整備など多岐に及ぶ。だが注目すべきは、内容以上に「語り方」の変化だ。
頼政権は防衛強化について11月末に会見を実施。それは単なる政策説明ではなく、国際社会や台湾内部に向けたメッセージを込めた戦略的コミュニケーションの色合いが濃い。「中国が2027年に武力統一を目標」と明確に取り上げた点もその1つで、蔡英文政権期と比べるとトーンが異なる。したがって、頼政権の発信に関しては「何を意図して語られているのか」を冷静に読み解く必要がある。
政策の中身だけでなく、注目は「語り方」
頼政権の防衛力強化策でまず目を引くのは、2030年に防衛費をGDP比5%へ引き上げるという計画である。台湾の防衛費は近年上昇傾向にあったとはいえ、ここまで踏み込んだ目標を総統が記者会見を開いてまで示すのは異例だ。ミサイル防衛や指揮統制体系の改善、AIを活用した判断支援、自主防衛産業の育成など、整備項目も広範囲にわたる。
こうした方針は、中国人民解放軍の増強やグレーゾーンでの活動が続く状況下では理解できる。一方で、今回の会見は政策そのもの以上に「語り方」が強く前に出ている点が特徴的だ。日本の報道で取り上げられた「台湾の盾」というキャッチーなフレーズも、現状の防空体制を改善・強化する取り組みを表すものであって、まったく新しい構想が突然立ち上がったわけではない。
今回の防衛力強化策は、「中身」と「発信」がセットになって提示されている。制度や数字を淡々と並べたこれまでの説明と比べ、受け手を意識した表現が増えている。具体的な整備内容だけでなく、なぜこのタイミングでこうしたメッセージが発信されたのか、その背景にも目を向ける必要がある。
今回の会見で最も特徴的なのは、政策そのものよりも「語りのトーン」が大きく変化した点である。頼政権は、防衛力強化を「台湾社会向け」にも「国際社会向け」にも強く印象づける語り方を選んでいる。単なる理念説明ではなく、意図的に組み立てられたメッセージとして読むべきだろう。
象徴的なのが「2027年」という時点の扱いである。台湾の軍当局は、この年を中国側の軍備力増強の進捗を推し量る「一つの指標」として取り上げることはあっても、それを明確な「年限」としてこなかった。ところが頼総統は、国際社会に緊張感を示すうえで「中国が2027年に武力統一を目標」と全面に出した。これは、脅威を強調することで防衛力強化の必要性を訴える以上に、日本など友好的な国に対して台湾に目を向けさせようとする意図が透けて見える。




















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