2022年11月、米オープンAIが生成AI(人工知能)モデル「チャットGPT」を一般公開すると、人間相手のように対話できる性能に世界中が驚いた。資本主義の本質を追究してきた経済学者・岩井克人氏の衝撃はとびきり大きかった。自身の資本主義論が揺るがされる思いがしたからだ。
この3年間、AI関連の論文を読みあさり、自然科学の研究者たちと議論を重ねてきたという。資本主義はどこへ向かうのか。
──なぜチャットGPTの登場に大きなショックを受けたのですか。
興味本位でチャットGPTを使い始めたのだが、あらかじめ意味も文法も仕込まれていない単なるコンピュータープログラムが、意味を持ち文法に従う文章をすらすらと生成していくことに衝撃を受けた。古代ギリシャのアリストテレス以来、言語を持つことこそ人間の本質であると主張されてきた。その最後の砦が落とされたからだ。もうおしまいだと白旗を揚げる前に、人間には何が残るのかを考え続けているが、苦戦中だ。
もう1つ衝撃を受けたことは、私がこれまで、お金がいちばん力を持っていた時代から、ポスト産業資本主義になるといよいよ人間が力を取り戻すと論じていたことに対し、チャットGPTをはじめとする生成AIの発達が大きな反論になってきていることだ。
再び産業資本主義の悪夢
──なぜお金から人間に力が移ると考えていたのですか。
私の資本主義論とは、商人資本主義、産業資本主義、ポスト産業資本主義と移り変わる中で、差異が利潤を生む基本原理は変わらないというものだ。
商人資本主義の時代は、例えば遠隔地商人がコショウを産地のスマトラ島で買ってヨーロッパに運べば高く売れ、利潤が得られた。




















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