ストローでゆっくりと缶ジュースを啜りながら、沢木は暗澹(あんたん)たる思いで、小雨の煙る西安の街を見やった。
「你好!」
代理商のトップを務める王は、5年前からA社の商品を取り扱ってくれていた。
「いやあ、おたくの商品のおかげでうちも潤っていますよ、今後ともよろしくお願いします」
言葉は丁寧だが、太い中国産のタバコをスパスパとくゆらせながら言った。
倉庫で衝撃的な状況を目の当たりにする沢木
早速、王の案内で倉庫に案内してもらう。ただ、その途中に、小雨が降っているにもかかわらず、倉庫の外にいくつも積み重なった段ボールが目についた。よく見ると、わが社の商品である。段ボールが濡れて変色している。強い口調でクレームをつけると、
「ああ、あれは倉庫に入りきらなくて……すぐに整理させますから」
ずさんな管理状況に沢木は言葉を失った。だが、倉庫の中に入って、乱雑に積み重ねられた段ボールの山に、沢木はさらに驚いた。日本の4S(「整理」「整頓」「清掃」「清潔」の頭文字をとった物流改善の基礎)の専門家なら、驚愕して意識を失うかもしれない。これでは、出荷するときに商品を見つけ出すのも一苦労だろう。こんな状態できちんと在庫量を把握できているのだろうか?
「ところで棚卸しはどうしているんですか?」
「ちゃんとやってますよ。……半年に1回くらいは」
「在庫の差異はどのくらいあるんですか?」
「まあ、そんなに大きくはないですよ」
“そんなに”とはどういうことだ? このような管理状況では、カウントミスや盗難など日常茶飯事だろう。差異が小さいはずはない。
矢継ぎ早にオーナーに質問を浴びせながら、地面に落ちている弁当のカスやたばこの吸い殻をかき分け、倉庫の奥に進む。奥のほうにはホコリをかぶった段ボールの山である。棚の奥に、すでに終売している商品の箱もあった。さらに子細に観察すると、先入れ先出し対応できるような整理の仕方をしていないようだ。
「在庫の計算方法は? これらの在庫もカウントされていますか? 不良在庫に見えますが」
「さあ、それは担当者に聞かないとわかりませんね……」
沢木は自分の耳と目を疑った。オーナーからして、在庫に対してこの程度の意識しか持っていない。在庫管理、出荷管理の担当者の仕事の質が容易に想像ついた。
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