特に近年では卸の倉庫のキャパシティも限界を迎えつつあることもあって、卸からの発注に基づいて出荷したのはいいものの、倉庫に納めきれず、倉庫が空くまでその場で数日、トラックの運転手ごと待機せざるを得ないという笑えない話も起こっている。
以上、“流通在庫の管理と最適化”はメーカーにとって非常に重要な意味をもつことがおわかりいただけただろうか。ただし、実はこれは旧くて新しいテーマで、どのメーカーも頭を悩ませているのが実態だ。日本の卸が合従連携を繰り返して寡占化が進んできたのに対し、中国ではそのほとんどが経営体力の低い零細企業だ。
特に、近年急速に成長した企業は、その経緯から、小規模の代理商と取引を開始し、ともに大きくなってきたケースが多い。ただし、成長に伴って売り上げ(と倉庫のスペース)は拡大するのだが、経営力が伴わず、沢木たちが見たような、代理商自身、どこにどれだけの在庫があるのか把握できないというのが実態だ。リベート目当ての短期的な仕入れを繰り返すのもその一因だと言える。 “ドンブリ勘定”がいまだに幅を利かせている世界なのだ。
中国のような新興国においては、メーカーは出荷して終わりではなく、卸の在庫マネジメントにまで踏み込んで支援し、店頭に届くまでの流通在庫全体を可視化しないと、過剰在庫や欠品のリスクをつねに抱えた状態となってしまう。
さらに、改革のための時間もリソースも限られていて、しかも卸と直接的な資本関係もなくガバナンスも効かせづらい状況がほとんどだ。こうした中、どのように代理商の在庫管理力をスピーディに底上げすべきなのだろうか。沢木たちの辿り着いた答えを追ってみよう。
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次の日、沢木と張は、本社の会議室で経営コンサルタントの久保田と向かい合っていた。
「今でも、代理商にはエクセルの在庫データを隔週で送ってもらっています。ただ、そのデータの信ぴょう性がまったく低いことがはっきりしました。今のデータに基づいてこれまで販売計画や生産計画を立てていたかと思うと、正直うすら寒くなる」
沢木は身をすくめて、茶葉が口に入らないように注意しながら、ホット烏龍茶を一口啜った。
「競合の欧米系B社のように、オンラインで情報を吸い上げるシステムを導入するタイミングではないでしょうか?」
久保田が言葉を継いだ。
「システム?」
「ええ、在庫管理、販売管理などの要素も備えたソフトウエアパッケージを卸に導入することで、ディストリビューターの業務改善や業務標準化も同時に推進することができます」
「なるほど。ただ代理商が本当に使ってくれるでしょうか? いまの隔週でのエクセルでの在庫量の入力でさえ渋っている代理商が多いのに、システムの導入となると、代理商側も、導入コストや教育コストがバカにならないでしょう? B社は、われわれよりも早くから中国に進出していて、売り上げも5倍はありますよね。そういうところでしたら代理商に言うことを聞かせることもできるのでしょうが」
「もっともな問いです」
久保田が答えた。
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