部下を抱え込んで離さない上司の遅すぎる後悔 春の人事異動「優秀な社員」に待ち受ける不運

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「あのとき、萬屋さんに言われた最後の一言が、今ようやく身に染みてわかりました。私は自分のエゴでAさんを縛りつけてしまった。未来ある彼のキャリアこそ、考えてあげるべきでした」

そう言ってくれて少々嬉しかった反面、正直「そのときに気づいて承諾してほしかったよ……」と、苦い思いもわき上がった。何も知らないAさんはその後も変わらず、現部署で懸命に働いているようだった。

管理職こそ部下の将来も見据えてほしい

管理職の中には、目の前のことや、自分の身の回り半径3メートルぐらいしか見えていない(見ようとしない)人もいる。

B部長のように、優秀な部下を自分の部署に囲い込み、絶対に離そうとしない人。

他部署の優秀な社員をなんとしてでも自分の部署に引き入れようと躍起になる人。

やる気も成果も上がらない問題社員や、ミスも文句も多いモンスター社員を自部署から追い出そうと画策する人。

こうしたアクと押しの強い部長が多かったため、異動計画の交渉は難航した。人事担当はそのたびに手を替え、品を替え、再提案を重ねる。

大きな声では言えないが、部長の希望通り、他部署の超優秀な課長を入れる代わりに、問題社員も引き取ってもらう「抱き合わせ作戦」で交渉し、なんとか了承してもらったこともあった。

それほど部長も、自分の部の業績を上げようと必死である。その気持ちはよくわかるし、わかるからこそ人事としてもなるべく希望に沿いたい。だが一方で、こうも思ってしまうのだ。「部のトップが果たして、このような狭い了見でいいのか」と。

部長ともなれば、社内では「経営の一翼を担う重要ポスト」と認識される。いわば経営側の人間である。

経営の視点で見た場合、人事異動によって得られる社員それぞれの成長やスキルアップは、結果的に会社の成長につながる。社員自身も、「この会社で成長できる・やりがいが得られる」と実感できれば、長く働き続けてくれるだろう。多くの優秀な社員に見限られて転職されてしまったら、それこそ会社にとって損失だ。

部下を預かる管理職の方には、自分の部さえ良ければという「私心」と、今さえよければという「短期目線」にとらわれすぎず、「部下の将来にとって、会社全体にとってどうか」という長期的かつ広い目線で判断いただけると、人事としてもこのうえなくありがたい。

実際、そうした広い視野を持った管理職のほうが、部下ものびのびと働き、部の業績を上げているようにお見受けする。

萬屋 たくみ 会社員(人事部長)

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よろずや たくみ / TAKUMI YOROZUYA

人事歴20年以上。大学卒業後、証券会社を経て、米国にMBA留学。経営視点からの人事戦略について学びを深める。帰国後、大手メーカー(売上高数兆円規模)の人事職に。国内外の拠点にて、採用から教育、人事異動、評価・報酬、労務など人事全般を手がけるほか、日々降りかかる社内の難題に取り組む。それらの実績と問題解決力が買われ、異例の30代で本社人事部の部長職に。さらに幅広い業界・業種で経験を積むため、総合商社やメーカー(外資・ベンチャー含む)にて、人事部長として組織づくりや改革に力を注ぐ。

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