「Aさんの後任には、課長としてマネジメント経験が豊富なCさんを候補として考えています。Cさんも○○部の課長として、適任だと捉えていますが、いかがですか? この異動は○○部にとっても、AさんやCさんのキャリアパスにとっても有効ではないでしょうか」
「いやいや、勘弁してくださいよ。彼がいなくなったら、うちの部署は間違いなく立ち行かなくなりますよ」
部長はゴネにゴネた。
一度では折り合いがつかず、日を改めて打診しても、首を縦に振らなかった。そこで私も腹に据えかね、極め付きの一言を言い放ってしまった。
「B部長、私も腹を割って話します。そこまでAさんを離したくないと言うのなら、部長はAさんの今後のキャリアに責任を持てるんですか?」
Bさんは一瞬、言葉に詰まった様子を見せた。だが、「どうしても承服しかねる」と、最後まで譲らなかった。
理由は薄々わかっている。部長である自分に立てつくことなく、期待以上の成果を出し続けるAさんを絶対に手放したくなかったのだ。もしAさんが異動して部の業績が落ちたら、自身の評価が下がり、出世はおろか、立場も危うくなる。それが怖かったからだ。
そして課長Aさんの異動はかなわず、そのまま今の部署でステイ。本人のあずかり知らぬところで、彼の“運命”が決まってしまっていた。
「自分のエゴで部下を縛りつけてしまった」
会社の人事とは、自身の範疇を超えたところで決められてしまうケースがほとんどだ。そして、諸行無常の理のごとく、はかなくも移り変わるものでもある。部下を自分の手元に縛りつけても、瞬く間に自分が他部署に異動になることもある。
先ほどの部長Bさんも一年半後に、あっけなく他部署に異動になった。その直後にBさんから私宛にメールが来たときは一瞬、身構えてしまったが、そこにはこんな思いがつづられていた。
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