AI社会では「文系・理系」の融合こそ喫緊の課題 専門課程後に「教養教育」を大学で学ぶべき理由

✎ 1〜 ✎ 10 ✎ 11 ✎ 12 ✎ 最新
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

松尾:私は、リーダーが意思決定するために必要なものが教養だと思っていますので、そういう意味では、教養とは実践知に近いもので、そこから離れてしまうとただの物知りということになってしまいます。やはり、いまの時代に大事な意思決定をしていくためには、ものごとの見方を広げ、歴史や他人の経験から学ぶ必要性がある。そこからもう少し広げて、そういった意思決定も含めて、自分の生き方をより善くするためにも教養が必要ということになると思います。

堀内:さきほどお尋ねした、個人とそれを取り巻く社会との関係についてはどう捉えていますでしょうか。たとえば、自分と日本という国を完全に同一視してしまって、日本がサッカーの試合に勝てばそれだけで幸せ、相手の国のことなんかどうでもよいみたいな人たちもいます。また、自分の幸せはどこにあるのかよくわからなくて、会社と自分のアイデンティティを一体化してしまうような人もいます。このような極端な例は別にしても、そうはいってもやはり社会が良くならなければ、自分だって幸せにはなれないという考えもあると思います。

松尾:先日、堀内さんがお住まいの軽井沢にうかがった際に、このような高尚な議論をしている堀内さんが、最近建てた高級別荘をいくらで売ろうと思っているとか、シンガポールの富裕層にだったら何億円くらいで売れるとかいう話を真剣にされていて、大変面白いなと感じました。地に足がついているというか。

私の研究についても、研究の成果を社会に還元する世俗的な部分と、それをもっと俯瞰して社会全体をより良くしていくという両面がないといけないと思っています。抽象論や高尚な議論ばかりしていても視野が狭い人間になってしまうので、自分と社会についても「多層的」な関わりを持つことが大切です。教養は広く社会の全体を捉えるうえで重要であり、それが日常的な活動の方向を示すものになっていくのでしょう。

堀内:メタ認知ということも含めて、多面的・多層的にものを見る力、ということですね。

松尾:同時に実践のほうも多面的・多層的なほうが良いと考えています。おそらく同じ職場でずっと勤めている人は多面的・多層的ではないので、教養だけ身につけても活かす場が少ないのかもしれません。

リーダーになる人にこそ教養が必要

堀内:日本の組織にいて変に勉強すると、妙に理屈っぽい奴だと思われてしまうリスクがあります(笑)。さきほど、別荘プロジェクトの話をされていましたが、私も自分が面白いと思うことをやっているだけで、何か明確な理屈があって行動しているわけではないんです。さきほど、アリストテレスのところで言いましたが、自分の知的好奇心に導かれて生きているようなところがあって、それがどうして面白いのかを人に説明してみてもあまり意味はなくて、それ自体を楽しんでいるんです。まさに人間には自分でさえわからないような多面的・多層的なところがあって、それでも自分の中では何か全体がつながっている気がしています。

最後に、あらためて、松尾さんにとって教養とは何かを、お聞かせいただけますか。

松尾:先に少し触れましたが、「教養」とは、ものごとの見方を高めてくれ、正しい結論を導くための意思決定に必要なものだと思っています。

意思決定というのは、数が多い事象については経験して学ぶ、つまり「トライ&エラー」でもよいのですが、政治や経営における意思決定のように、失敗が許されない、自身の経験から学ぶことができないケースの場合、歴史や自分以外の経験から学ぶ必要が出てきます。そのために、とりわけリーダーになる人にとっては、教養を学ぶ、教養を高めることが必要になるのではないでしょうか。

堀内:本日は数多くの貴重なお話をありがとうございました。

(構成・文:中島はるな)

松尾 豊 東京大学教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

まつおゆたか / Yutaka Matsuo

1975年香川県生まれ。1997年に東京大学工学部電子情報工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科電子情報工学専攻博士課程修了。独立行政法人産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学CSLI客員研究員を経て、2019年から東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授。2017年、日本ディープラーニング協会理事長。2019年、ソフトバンクグループ株式会社取締役(社外)。2021年、新しい資本主義実現会議有識者構成員。2023年、AI戦略会議座長。人工知能研究の第一人者であり、ビジネス界においても注目されている。著書に『人工知能は人間を超えるか︱ディープラーニングの先にあるもの』(KADOKAWA)など。

この著者の記事一覧はこちら
堀内 勉 多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長 

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ほりうち・ つとむ / Tsutomu Horiuchi
 

東京大学法学部卒、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP)修了。日本興業銀行(現みずほ FG)、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント代表取締役社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長等を歴任。現在、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長、上智大学知のエグゼクティブサロン・プログラムコーディネーター、一般社団法人100年企業戦略研究所所長、一般財団法人社会変革推進財団評議員、一般社団法人アジアソサエティ・ジャパンセンター理事、ボルテックス取締役会長等。著書に『読書大全』『人生を変える読書』がある。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事