幸い、大倉さん夫妻は無事でした。しかし、家から外に出て倒壊物に巻き込まれ、亡くなった方もいます。大倉さんたちも、たった一つでも条件が異なれば、命を失っていてもおかしくない状況でした。
生と死の境界線は、ほんの少しの偶然によって、白にも黒にもなってしまう、薄くにじんだ頼りない境界のようにも思えます。
「想定外」が起きるのが災害
ここで改めて皆さんと一緒に考えておきたいと思っているのは、災害時は「想定を超える事態が起きる」場合があるということです。
想定内の場合は、マニュアル通りの行動を素早く実行することが効果的です。けれども想定外の事態が起きたとき、マニュアルや“マルバツ思考”では逆効果になってしまうことがあります。
例えば、地震の際は、足をケガしないために靴を履くことが大切だと言われます。「裸足のまま飛び出すのはマルかバツか」といえば、答えは「バツ」になるでしょう。
一方で実際には、大ケガはするかもしれないけれど、倒壊する家から真っ先に裸足で外へ脱出したから助かった方もいます。
また避難のために非常持ち出し袋を準備することはとても大切なことです。しかし大倉さんの体験で言えば、スマートフォンすら取りに戻らなかったからこそ助かっています。
「靴は絶対履いて避難する」や「せっかく準備した持ち出し袋を持たねば」など、事前に想定している対策へのこだわりは、「想定外」の激しい揺れが起きたときには、柔軟に行動する足かせにもなります。
私は大倉さんの話を聞いて、家屋に耐震補強して終わりではなく、「それでも、もしかすると家が倒壊するかもしれない」ということまで考えておくことが、とっさのときの選択肢を増やすようにも思えました。
あれこれ考えるのは面倒で、「答えを教えて!」と言いたくなるでしょう。その気持ちはよくわかります。しかし残念ながら、答えがない問題に次から次へと直面する、体もまったく思うように動かない、それが災害時なのです。
反面、確実に生存率を上げてくれるのが家屋の耐震性向上や家具の固定、ブロック塀の撤去、電柱の地中化といった、震災時の被害を少しでも減らすための環境整備です。
これらはせっかく平時にできる対策なのに、資金面でのハードルが高いことが障害になっています。今後は、国や各自治体もより一層、これらの対策に取り組んでいくことが課題になります。
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