孫:むしろ、それをピュアな形で追求しはじめるような気がします。
たとえば江戸時代、庶民はみんな長屋に住んでいましたよね。「宵越しの銭は持たない」という言葉がありますが、貯蓄なんて意味がないとみんなが思っていた。
つまり、裏を返せば将来の不安、老後の不安がなかったんです。みんなで長屋に暮らしているから、どうとでもなると思っていたんですよね。
たとえば長屋の住人の職人さんにどーんとお金が入ってきた。現代の常識でいえば、個人が預金して将来のリスクに備えるでしょうが、当時は銀行もないから「今日はみんなでうまいものを食おう。俺のおごりや!」みたいな感じで楽しくやるわけです。
そのうちまた別の誰かがお金を稼いできて、「今日はわしのおごりや!」となる。それで成り立っていたわけです。
つまり、お金を貯めることのインセンティブがなかったわけです。そういったイメージに近くなるような気がします。
「お金の価値」が下がっていく!?
つんく♂:今の常識とはだいぶ違いますが、言われてみれば核家族化が進んだのは20世紀以降ですよね。
孫:そうなんです。「家族がいちばん大事だよね」っていう価値観は、やはり明治・大正以降なんですよね。それ以前は、もっと多様な人間関係があったわけです。
僕が子どもの頃は、田舎だったせいもあって「隣の家でごはんを食べさせてもらいなさい。今日お母さんは遅くなるから」がまかりとおっていました。
隣の人に頼んであるわけでもなく「おふくろがここで飯を食べさせてもらえって言ったんです」と言えば「じゃあ食べていけ」となる。それって、江戸時代の名残なんですよね。今は「コンビニで買いなさい」とか「ウーバーイーツを頼みなさい」でしょうけどね。
つんく♂:そういう意味では、昔のほうが「お金の価値」は低かったのかな。言われてみれば、そういうときに「いくらかかったから」なんていう考え自体、なかったですよね。