「年収900万円→工場夜勤バイト」57歳男性の綻び それでも高級分譲マンションに住み続けるワケ

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さらに負の連鎖は続く。

3年前、イサオさんは会社を辞めた。単身赴任生活が続くことへの不安や、「家族のもとに帰りたい」という思いがあったのだという。ちょうど会社が早期退職者を募集するタイミングとも重なった。家族からは反対されたが、最後はそれを押し切って退職した。

しかし、家族と同居したことで摩擦は一層深刻化した。そして退職から数カ月後、突然、警察署からイサオさんの携帯に電話がかかってくる。生活安全課の刑事だと名乗る男が「家族から相談を受けているので、いますぐ出頭するように」という。納得できないまま署に出向くと、今度は「医療保護入院をしないと帰さない」と言われた。

警察から「このまま帰すことはできない」

「医療保護入院」とは、精神保健福祉法が定める強制入院制度のひとつ。家族1人の同意と精神保健指定医1人の診断があれば、本人の同意がなくても入院させることができる。「任意入院」と、都道府県知事の権限などで行われる「措置入院」の中間にあたり、精神科病院の入院の半数を占める。日本特有の制度でもあり、国連からはこうした強制入院に対する改善勧告も出されている。

イサオさんは机をたたくなどして抵抗したものの、警察側は「このまま帰すことはできない」の一点張り。最後は根負けしてパトカーに乗り込み、そのまま精神科病院に移送された。当時の状況について、イサオさんは次のように語る。

「家族が見ているところでわざと砥石で包丁を研いだり、『この家を事故物件にしてやる』と言ったりはしました。子どもに対する(取っ組み合いや胸ぐらをつかむなどの)振る舞いも、妻の目には虐待と映ったのかもしれません。でも、妻に手を上げたことは一度もありませんし、警察沙汰になったこともありません」

イサオさんの話が事実なら、やはり強制入院は行き過ぎだし、警察の対応も民事不介入の原則に照らせば完全な越権行為である。

イサオさんは医療保護入院について「拉致監禁も同然」と憤る一方で、「借金や、私の感情の起伏が激しくなったせいで迷惑をかけたことに対する罰として受け入れなければならないのかなとも思いました」と揺れる心情を吐露した。

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