「今までできていたことができなくなったんです。イライラすることが増え、感情の起伏も激しくなりました。何かがおかしい。以前の自分とは違う。そんな不安が募りました」
イサオさんの仕事は代理店向けの営業や現場での施工指導だったが、複数の業務を掛け持ちすることが難しくなった。いわゆるマルチタスクができなくなったのだという。
また、街中で前方から歩いてくる人と肩がぶつかってトラブルになり、一緒にいた同僚を驚かせたこともあった。「ほんの少し私が譲ればすむのに、自分からぶつかっていく感じ。以前の私なら考えられないことでした。もともとはそういうトラブルを取りなす側の人間でしたから」。
経済的DV、そしてギャンブル依存へ
イライラの矛先は家族にも向かった。妻に対する言葉遣いが荒くなり、激高して壁を殴ったことも。反抗期の子どもとは些細なことから取っ組み合いになったり、胸ぐらをつかんで壁に押し付けたりした。家族との溝が広がっていく様子を、イサオさんが振り返る。
「単身赴任先に戻るとき、最初のころは家族全員で駅まで見送りにきてくれていたんです。でも、次第にそれがなくなって。東京の家に帰っても居場所がなくなり、リビングで1人で寝るようになりました。一言も会話のないまま赴任先に戻ることもありました」
イサオさんにとって何よりこたえたのは妻からセックスを拒まれるようになったことだ。「この状態が続くなら離婚も考える」という旨のメールも送ってみたが、返事はなかったという。そして業を煮やしたイサオさんが取った手段は、給料の送金をやめることだった。
そもそもイサオさんには離婚の意思はなく、送金停止はセックスレスをなんとかしたいという一心からだったという。しかし、生活費を渡さないことは経済的DVでもある。結局、“兵糧攻め”は2年に及んだが、事態が改善することはなかった。
加えてイサオさんはストレスのはけ口を求めるかのようにギャンブルに依存するようになった。「競馬です。(くも膜下出血発症前から)パチンコはしていましたが、消費者金融でお金を借りたのは初めてでした」と打ち明ける。このときの借金は300万円にのぼった。
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