「人の話をよく聞く」トップが大企業で増えた必然 「人本主義的な経営」が見直されている

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とはいえ、会社が株主のものであることは厳然たる事実です。「人を大事にする」というだけで、株主に納得してもらえるのかという疑問を持つ人もいるかもしれません。

「人本主義」は株主資本主義と両立するのか?

これについては、人本主義を唱えた伊丹氏自身が、『日経ビジネス』の「人本主義は死んだのか?」というインタビューの中で、こう答えています(「『人本主義』は死んだのか 伊丹敬之・東京理科大学教授に聞く」、日経ビジネス電子版、2015年7月31日)。

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「少なくとも日本電産[現ニデック:引用者注]や京セラでは生きているよね。どちらも社員に厳しい会社だけど、情がある。ついていけない人は自発的に辞めているんだろうけど、残った人たちは頑張るでしょ。両社に共通しているのは管理会計をきちんとやっていること。自分たちが頑張った成果がきちんと数字で表れる。これは大事です。会社は株主のものか、それとも社員のものか、と言うけれど、人本主義をちゃんとやれば、株主にもメリットがあります」

つまり、人を大事にすることが結局は株主のメリットにもなるということです。ニデックや京セラは、どちらもまさに「パーパス」を大事にすることで成長してきた企業です。

さらに言えば、世界規模でも、こうした「人を大事にする経営」が主流になりつつあります。アップルやグーグルといったリーディングカンパニーも、「人の話をよく聞く」タイプのトップが率いるようになっています。

破綻しつつある株主主権の資本主義をいまだ「グローバルスタンダード」と崇めている日本企業は、速やかに目を覚ますべきでしょう。

名和 高司 京都先端科学大学教授

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なわ・たかし / Takashi Nawa

東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネススクールにてMBA取得(ベーカースカラー授与)。三菱商事を経て、2010年までマッキンゼーのディレクターとして、約20年間、コンサルティングに従事。日本、アジア、アメリカなどを舞台に、多様な業界において、次世代成長戦略、全社構造改革などのプロジェクトに幅広く携わる。ファーストリテイリング、味の素、 SOMPOホールディングスなどの社外取締役、アクセンチュア、インターブランドなどのシニアアドバイザーを兼任。近著に『企業変革の教科書』(東洋経済新報社)、『稲盛と永守』(日本経済新聞出版)、『パーパス経営』(東洋経済新報社)がある。

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