新しい技術革新による商品が生まれたとしても、誰かがそれを以前の商品よりも高い値段で買わないことには、経済は拡大しない。新しく高く買うためのカネが、どこかから来ないといけないのである。
それは新大陸からの銀か金か、「王侯貴族がため込んだ資本を消費支出する」(ヴェルナー・ゾンバルト『恋愛と贅沢と資本主義』」から)か、軍事支出として資材を調達するか、あるいは、ヨーゼフ・シュンペーターが主張するように、銀行が新しく追加的な信用創造をして新しい企業家に貸し出す銀行資本なのである。
資本投入量が増えないことには、経済市場と金融市場は膨らまないのである。これが近代資本主義における市場経済であり、金融市場なのだ。だから、交換の場である市場(いちば)や生活必需品を入手するための市場(いちば)と異なり、新しく高い価格を付ける市場(しじょう)が必要なのである。
近代資本主義が発明した「2つのバブル膨張メカニズム」
資産市場が実体経済よりもバブルが膨張しやすい理由は、この時価主義にある。市場で売買されるのは、マージナルな、端っこだけである。つまり、最後に買いたい人が買った値段が、その金融商品の価格となる。
株式が100万株発行されていても、市場で1株が10円のときは時価総額は1000万円だが、最後の1株が奪い合いになって100円になれば時価総額は1億円になるのである。これはビットコインにせよ、廃版のスニーカーにせよ、仕組みは同じである。
売買しなかった人々は含み益が10倍になるのだ。そうなると市場の時価総額も10倍になり、経済全体における金融資産総額は10倍になる。日本の個人金融資産総額がいつの間にか約1200兆円から約2100兆円になったのも、日本が900兆円稼いだのではなく、一部の株式の取引価格が上昇しただけのことなのである。
そして、この時価総額を担保に融資が行われ、経済活動が行われる。個人も自分の財産が10倍になったと思って、消費を3倍に増やし、それでも余裕だと思っているのである。
これが、株式の発明、株式市場の発明、個人をも巻き込む証券取引所の発明が生み出したバブルの膨張プロセスであることは、『すべての経済はバブルに通じる』でも書いた。
新たに株式市場に、より貧しい人々(大金持ちだけでなく小金持ちや年金を増やそうとする庶民)を動員することによる「ネズミ講メカニズム」が、金融市場資本主義とバブルの本質であり、さらに、一部分の値付けが全体に及ぶ時価市場(至上)主義のメカニズムなのであり、この2つを発明した近代資本主義は大いにバブルを膨張させてきたのである。
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