戦後の日本で「すき焼き店」が衰退した意外な事情 一方で焼鳥店や焼肉店が店舗数を増やした

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「玉ひで」では伝統的に闘鶏用のニワトリ=シャモを使用していますが、戦前のすき焼きに使用していた主な鶏肉は親鳥、つまり卵を産まなくなった鶏卵用の老いたニワトリでした。

この親鳥、肉質は硬いのですが旨味が強いという特徴があります。その旨味を生かし、中華料理店やラーメン店ではスープの素材として重宝されています。

親鳥と同じく、シャモもまた肉質は硬いのですが旨味は強い。この、親鳥やシャモに適した調理法が、鍋で煮込むすき焼きなのです。

硬い親鳥やシャモを薄切りにして、醤油を使った割下で煮る。硬い肉は適度に柔らかくなり、醤油の強い味にも負けない旨味が鍋の中に溶け出す。すき焼きとは、親鳥やシャモに最適化された調理法だったのです。

すき焼きに向かなかったブロイラー

ところが、1960年~1970年代にアメリカから導入されたニワトリ=ブロイラーが、その値段の安さで親鳥やシャモを鶏肉市場から駆逐していきました。

ブロイラーとは、少ない飼料で早く成長するように品種改良されたニワトリ。短期間で大きくなるため値段は安く、その身は柔らかいのですが、一方で親鳥やシャモに比較すると旨味が少ないという欠点があります。

旨味の強い親鳥やシャモに最適化された料理=すき焼きにブロイラーは向かなかったのです。

しかしブロイラーはけっして「まずい」わけではありません。すき焼きという調理法には向いていないというだけです。

ブロイラーはもともと、アメリカでの調理法に最適化された品種。加熱しても柔らかさを失わない肉質は、焼く、揚げる料理に適していました。すなわちローストチキンやフライドチキンです。

焼き鳥屋 すき焼き屋 焼き肉屋
ブロイラーはフライドチキンに適していた(写真: 花咲かずなり / PIXTA)

すき焼きに変わって、ブロイラーに適した「焼く、揚げる」鶏肉料理が1960~1970年代以降盛んとなりました。外食産業における焼鳥と、家庭料理としての唐揚げです。

それまで非常に高価であったローストターキーにかわって、1960年代にはブロイラーを使った安価なローストチキンがクリスマスの主役となります。

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