浅草の老舗「米久」の4代目主人丸山海南夫は、和牛の肉質の変化について次のように述べています。
“仕入れた肉は、まず寝かせます。二週間とか、冬場になると二ヶ月くらい、成形もしないで置いておくわけです。そして、肉が熟成してやわらかくなって、ちょうど使い頃になったところではじめて、成形します。そうすると、その頃には肉の周りはカビだらけになっている。ただしひと皮むけば、カビの付いた部分を落としてしまえば、中はきれいな、食べ頃の肉になっている。”
“でもね、そういう肉は昔の肉でね。いまの牛はそうやって寝かせておいて、いざ切ってみると、下手すると脂の部分なんかにカビが入り込んでいたりする。肉の中にです。そうなると、いくら掃除したって使いものになりません。腐った臭いが残っちゃいますから。どうしてそうなるのかというと、いまの牛は極端にいうと、無菌状態で育っているからなんです。肉のために必要な菌まで殺しちゃってる。それでうまい牛が減ってきているんです。”(岩崎信也『食べもの屋の昭和』)
肉質や熟成の仕方の変化も
「無菌」なのかどうかについてはさておき、かつての使役牛の筋肉質の肉と、サシを重視する現在の和牛の肉では、熟成の仕方が変わってきているようなのです。
すき焼き店が衰退した一因には、この肉質の変化、熟成の仕方の変化があったのかもしれません。
著者フォローすると、近代食文化研究会さんの最新記事をメールでお知らせします。
著者フォロー
フォローした著者の最新記事が公開されると、メールでお知らせします。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。
きんだいしょくぶんかけんきゅうかい / Kindai Shokubunka Kenkyukai
食文化史研究家。2018年に『お好み焼きの戦前史』を出版。以降、一年に一冊のペースで『牛丼の戦前史』『焼鳥の戦前史』『串かつの戦前史』『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』等を出版。膨大な収集資料を用いて近代の食文化史を解き明かしている。(Amazon著者ページ、Twitterアカウント、note)
無料会員登録はこちら
ログインはこちら