「マヂカルラブリー論争」が起きる日本国民の凄さ 漫才の大会「M-1」が育てた芸人と観客の漫才観

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しかし、歴史の生き証人である谷氏が書いた『M-1はじめました。』を読むと、そんな私でも知らなかったような「M-1」創設の経緯が事細かに記されていて、感銘を受けた。これは間違いなくお笑いの歴史における一級史料である。

本書を読めば、お笑いに詳しい人もそうではない人も、「M-1」を立ち上げるまでにどのような苦労があったのかということがありありとわかり、「M-1」という大会の革新性が理解できる。お笑い関連のノンフィクションとしてもビジネス書としても有意義な一冊だ。

本書を読んで改めて気付くのは、「M-1」が生まれる前、漫才がいかに不遇の状態にあったのかということだ。漫才文化が根強くある関西地域に住んでいる人はそこまで実感がないかもしれないが、それ以外の人にとって、漫才とはどこか遠い世界のものであり、流行っていないどころか、認識すらされていないものだった。

芸人の成功に漫才の介入余地はなかった

当時の芸人の一般的な成功モデルは、テレビに出てチャンスをつかみ、ゴールデンタイムでコント番組をやることだった。「芸人の成功=コント番組」という時代だった。

ザ・ドリフターズ、ビートたけし、明石家さんま、とんねるず、ウッチャンナンチャン、ダウンタウンなど、スター芸人の誰もがコント番組を自分たちの根城にしていた。芸人が成功するとはそういうことであり、そこに漫才が介入する余地はなかった。

そんな時代に、吉本興業の谷氏は「漫才を盛り上げるためのプロジェクト」を任された。すっかり時代遅れになってしまった漫才を復興するというのは、大それた目標だった。だからこそ、谷氏も当初は苦戦を強いられた。漫才プロジェクトは、吉本興業の内部ですらそれほど期待されておらず、見向きもされていない地味な計画だったのだ。

「M-1」が始まった当初、それがのちにこれほど大きな大会になると思っていた人は、業界内にも一般視聴者にもほとんどいなかったのではないか。一お笑いファンである私自身も例外ではなかった。

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