「魚が獲れない日本」漁師の減少が原因ではない訳 漁師が減っても魚が増えるノルウェーと日本の差

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次のグラフは、ノルウェーにおける上がサバなどの浮魚類の漁獲量で、真ん中が同資源量、下が同水揚げ金額の推移です。1970年〜1980年代前後の話ですが、ノルウェーでは、ニシンやマダラなどで乱獲により資源を大きく減少させてしまった苦い経験があります。その後、資源管理を強化した結果、水産業は著しく成長して現在に至ります。

上からサバなどの浮魚類の漁獲量・資源量・水揚げ金額の推移(出所)ノルウェー水産総局のデータを筆者編集

 

 

ノルウェーと日本では大きな違いがあり、その差は広がってしまいました。その違いとは正直に乱獲を認めて反省し、資源管理をしているかどうかなのです。実際に魚が減っているのに減っていないという前提だと、「誤った処方箋で薬を飲み続ける」ことになってしまいます。もちろん効果があるはずはなく、悪化の一途となります。

世界の成功事例が浸透していない現状

現在、国は2020年に改正した漁業法に基づき、TAC魚種を増やして数量管理に舵を切ろうとしています。本来はそれを早く推し進めねばなりません。

しかしながら、世界の成功事例が浸透しておらず、資源が明らかに減っているのに「減っていない」と誤った情報を提供されてしまうことで、漁業者は今まで通りでいいのだと、「反対」という「自分で自分の首を絞めてしまう行動」を起こしてしまいます。そして消費者には供給不足や価値が低い魚が高い価格で提供されることになってきています。もちろん誰にとってもよくありません。

「魚は減っていない」という誤った前提は、対策の遅れを招き資源を次々に崩壊させています。これを科学的根拠に基づいて払拭し、一刻も早く、成功している結果に基づいた数量管理による資源管理を実行していくことが必要ではないでしょうか。

片野 歩 Fisk Japan

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かたの あゆむ / Ayumu Katano

早稲田大学卒。Youtube「おさかな研究所」発信。2022年東洋経済オンラインでニューウェーブ賞受賞。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。長年北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国であるノルウェーには、20年以上毎年訪問を続けてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会)他。

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