トヨタのEV普及、カギ握る「出光の固体電解質」 出光のキーマンが明かす苦節30年の開発秘話

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出光は1970年代のオイルショックを経て、世界中で石油資源の枯渇が叫ばれる中、代替エネルギーや素材開発を本格化する。1981年には研究所で「クンロク(96)検討会」が発足し、15年後の1996年を見据えた新規事業を模索する。機能性樹脂の開発もその一環だった。

1990年代に入り、研究所では塩素化されたベンゼンに硫化ナトリウム(Na₂S)を反応させたポリフェニレンスルファイド(PPS)という機能性樹脂の開発を進めていた。ただ、この方式では溶媒に溶けにくい塩が発生し、製造過程で扱いづらい。

このため、硫化ナトリウムの代わりに硫化リチウム(Li₂S)を結合させる方式をある研究員が考案した。このとき工業生産されていなかった純度の高い硫化リチウムを自らつくり出したことが、今日の固体電解質の開発につながる原点となった。

この研究で特許を出願したのが1994年。出光が環境対応(低ベンゼン)ガソリン「出光ゼアス」を発売した頃だ。しかし硫化リチウムの製造技術は確立したものの、電池への活用はまったく想定されておらず、PPS製造での使用も途中で断念したため、硫化リチウムの用途は宙に浮く形となった。

大阪府立大学との出会いが転機に

出光で固体電解質の開発を先導する山本徳行氏(記者撮影)

7年の雌伏の時を経て、大きな転機が2001年に訪れる。当時、大阪府立大学で電解質の研究を行っていた辰巳砂昌弘教授(現大阪公立大学学長)が、この硫化リチウムにリンの添加物を加えると、伝導度の高い固体電解質ができることを発見したのだ。

「電池が全固体になるという発想がなかった時代だったが、(硫化リチウムが)固体電解質に結びついた瞬間、われわれのターゲットは電池になった」と山本氏は振り返る。

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