しかし今は、こう尋ねるのだという。「こんないい加減な信用調査で、どうやってお客様の生活をよくしようっていうんだ?」。そうすると、従業員は一層努力する気になるのである。この話からわかるように、パーパスを持つことと実現することの違いは紙一重であることが多い。
もうひとつ、私の顧客であった企業幹部の例を紹介しよう。仮にアレックス氏とする。
アレックス氏と初めて会ったとき、彼の懸念事項は、市場低迷による厳しいコスト圧力だった。私がチームではどのように対処しているのかを尋ねると、彼は困惑した表情を浮かべた。「いや、うちのチームはこれほど悪い状況だとは知らないんですよ。それを伝えたらパニックになるだろうし、有能な人は辞めちゃうでしょうから」。
本当に“透明”な組織であること
今度は私が困惑する番だった。「でも、あなたたちのコアバリューのひとつは透明性ですよね。チームを巻き込んで、アイデアを話し合って、この苦境を乗り切ろうという強いコミットメントを持たせたほうがいいんじゃないですか?」。
彼の答えは示唆的だった。「透明性って、なんでもかんでも話せばいいってもんじゃないでしょう。混乱を招くような情報は伝えないほうがよいと思うのですが」。
そこで私は彼に伝えた。「透明性というバリューの裏には、必ず信頼がなくてはならない。部下を信頼して、どんなに受け入れがたい情報も打ち明けることが大事なんです」と。
アレックス氏は決してチームを騙そうとしていたわけではなく、あくまでも会社のバリューに沿って行動しているつもりだった。ただ、彼が会社の問題をずっと隠していたことを部下が知ったとき、どのようなひどい事態が起きるかまで思い至らなかったのだ。
こうしてアレックス氏は自分の行動を改める決意をした。会社の財政的な問題をチームに共有し、彼らの責任感に訴えかけた。そして皆で協力し、誰1人リストラすることなくコストを大幅に削減する方法を見つけたのだ。アレックス氏1人ではそのような解決策には至らなかっただろう。
透明性を重視するだけではいけなかった。先行きが不安定な困難な状況においては特に、実際に透明でいることが大事だったのだ。
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