後期研修医が大学病院にとって「都合がいい」理由 勤務時間減では解決しない「医師の働き方」改革

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病院の経営者は生き残りに懸命だ。病院の収入は診療報酬単価と患者数の掛け算で決まる。診療報酬は厚労省が統制しており、財政難のわが国では横ばいが続いている。一方、急性期の治療が必要な患者は減るのだから、このような病院の売り上げは減少する。

前出の甲南医療センターを経営する公益財団法人甲南会の財務諸表によれば、2022年度の医業関連収益は約192億円。経常費用は約205億円で、医業収益だけなら13億円の赤字。2022年度は約32億円の補助金を受け取っており約8億円の黒字となっているが、補助金の多くはコロナ関連だろう。

病院が生き延びるためには、コストを下げなければならない。理想は安くてよく働く医師を確保することだ。

経営者にとって使い勝手がいいのが後期研修医だ。今回、自殺した若手医師は後期研修医だった。医学部を卒業後、2年間の初期研修を終えているため、一通りの診療行為はできるし、若くて体力があり、激務にも耐えられる。おまけに給料も安く、残業代も十分に払わずに済む。甲南医療センターの卒後3年目の後期研修医は650万円の年俸制で、時間外手当は「月30時間を超える場合に、超えた時間分を支給」とある。

後期研修医が病院を辞めない理由

日本は深刻な医師不足だ。働く場所はいくらでもある。なぜ、後期研修医は待遇の悪い病院を辞めないのだろう。それは指定病院で一定期間、診療しないと専門医資格を得られないからだ。医師の世界で専門医資格は重要だ。だから、どんなに待遇が悪くても途中で辞めるわけにはいかない。

実際 、2023年度に研修プログラムに参加した医師は9325人。2021年の医師国家試験合格者は9058人だから、初期研修を終えた医学部卒業後3年目の医師のほぼ全員が参加していることになる。

このロジックがおかしいのは、本来、専門医資格は医師の実力や実績に対して付与されるべきものなのに、研修先の病院が決まっているからだ。

このような制度ができたのは、最近だ。2018年に新専門医制度が始まり、日本専門医機構が認定する病院での勤務が義務付けられた。同機構は日本内科学会や日本外科学会などの医学会の連合体で、理事の多くは大学教授や有名病院の部長が占める。

実は、同機構にはガバナンス上の構造的欠陥がある。それは、この組織が一般社団法人の形態をとっている点だ。独立行政法人は国会や官邸、NPO法人は都道府県、公益法人は内閣府の監督を受けるが、一般社団法人には法的枠組みはない。

このような組織が、専門医資格の付与と引き換えに、若手医師の勤務先を決めることは、独占禁止法に違反すると言われても仕方ない。この問題には厚労省が介入すべきだが、厚労省にそのつもりはなく、むしろ同機構を後押しし、毎年1億円程度の補助金を出している。

後期研修病院に認定されれば、労せずして低賃金で若手医師を確保できる。プログラムを離脱すれば、専門医の資格を得られないのだから、若手医師が退職する心配もない。これが筆者の考察する甲南医療センターでの若手医師の自殺の背景だ。

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